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会いに来た


会いに行くの続き


「…嘘でしょ」

久しぶりに下山して、リザードンに頼んで飛んでもらったシオンタウンは、ボクが知っている町とは全く違うものだった。
……ポケモンタワーがない。ナナシがボランティアをしていたあの民家も無くなっていた。
とりあえずポケモンタワーがあった場所に設立された「ラジオ塔」へ行く。受付のお姉さんに尋ねれば、ポケモンタワー改築に伴い「たましいのいえ」という施設が新設されたらしい。場所を教えてもらいそこに向かえば、数年前と変わらない後姿。

「フジさん」
「ん?おお、レッドくんか…?」
「はい、お久しぶりです」
「いつぞやは本当にありがとう。元気にしておったか」
「ええ、まあ。あの、」
「そうじゃ、せっかくだからゆっくりして行きなさい。いまお茶を出そう」
「あ、じゃなくてフジさん」
「?」
「ナナシは、いまどこに」

なにやらにこやかに接待してくれようとするフジ老人の話を遮り、ナナシの行方を聞く。どうやら彼はボクが彼女と連絡を取り合っていると思っていたらしい。ああ、グリーンが言う通りポケギア(だっけ?)持っとけば良かった。



*



フジ老人に教えてもらい飛んで来たのはタマムシシティ。リザードンごめん、お疲れさま。
なんでもナナシはエリカがしてる香水店で働いてるとのこと。そういえば前も手伝いをしてると言っていた気がする。でもエリカが運営している香水店がどこにあるかなんてさっぱり分からないので、目指すはジム。まだジムリーダーしてるといいんだけど。


数年前と変わらず元気に覗きをしているおじいさんを素通りして、ジムの中へ。相変わらず、独特の香りがするジムだ。

ジムに入ると、入り口の近くにいた女の子がボクに気づいて近づいてきた。

「あなた、挑戦者?」
「……ちがう」
「じゃあ何しに来たの!もしかして、痴漢!?」
「へ?いや、ちが、」
「エリカ様、痴漢です!」

全く聞き耳を持ってくれないミニスカート。その子がそう叫ぶと、一気にまわりに人が集まって来た。訂正するのも面倒だし、エリカを呼んでくれるならそれでいいや。

「痴漢ですって!?」
「エリカ様!」
「ども。ひさしぶり」
「あなたは…!」

取り巻き2人を引き連れて駆け付けたエリカの顔は、驚き半分怒り半分。あれ、ボクだってわかってる…よね?

「レッドさん!こんなことをする方だなんて思いませんでしたわ!!」
「え。いや、だからちが、」
「ウツボット!つるのムチですわ!」
「ツボーット!!」
「待っ、」

バチンッ!!

気持ちのいい音と共に頬に走る激痛。
左ほほがやたらとジンジンして熱い。

「……ッ、エリカ、ちがうから。話し聞いて」

痛みに耐えながらそう伝えれば、眉を顰めながら「痴漢の話しなんて聞く耳を持ちませんわ」と言われた。だから痴漢じゃないんだけど。

「ピーカチュ?」
「うん、大丈夫」

足元から心配そうにボクを見上げるピカチュウ。さっきまで肩に乗ってたのに、いつのまに足元に行ったんだろう。さては叩かれるのを見越しておりたな、裏切者め。

「エリカ。ボク、痴漢じゃない」
「自ら痴漢だなんていう痴漢はいませんわ」
「そうじゃなくて、ナナシの居場所聞きに来ただけ」
「……はい?」

その後、ここに来た理由と痴漢騒動のいきさつを話せば、エリカをはじめ入口のミニスカートの子とウツボットがものすごくボクに謝って来た。気にしてない、と伝えてもそれは終わらなくて。(強制的に)ポケモンセンターに連行された。

「お恥ずかしい話ですわ…」
「別に大丈夫」
「でも、痛かったでしょう?」
「ツボー…」
「ああ、よく育てられてる。ちゃんと物理に比重を置いて育てなきゃあんな威力にはならない。さすがエリカのウツボットだね」
「あの、そうではなくて」
「…?」

ウツボットの頭の葉っぱを撫でてやりながらそう言えば、困惑したようなエリカ。他にどんな意味があるのか、と首を傾げれば「そういえばそういう方でしたわね」と呟かれた。

「それで、ナナシはいまどこにいるか分かる?」
「ああ、ナナシさんでしたらさっきお呼びしましたから、もうそろそろ来ると思もいますわ」
「そうなの、ありがとう」
「いいえ。お気になさらないでくださいな」
「…ナナシ、ボクのこと覚えてるといいけど」
「それは心配には及びませんわ。レッドさんのお話、3年経ったいまでもよく伺います」
「…ほんと?」
「ええ。素敵な話しですわ、1度しか会ったことのない相手を、ずっと想い続けてるんですもの」
「そっか、…ボクと同じだ」

覚えていてくれたと分かっただけで、充分嬉しい。いきなりこんな行動を起こしてみたけど、心の底ではそれが1番心配だったから。
エリカの言葉に胸があつくなる。

「そうですわレッドさん、よろしかったらポケギアの番号を教えていただけませんこと?事前に連絡していただければ、今日みたいな間違いも起こらないと思いますし」
「ああ。ごめん、ポケギア持ってない」
「………」
「………」
「さすが、としか言いようがありませんわね」
「ありがとう」
「………」

再び沈黙が訪れたと同時に、コンコンッ控とえ目にドアが叩かれる。
ゆっくりと開かれたドアの先にいたのは、会いたかった彼女の姿。

「あら、お姫様のお出ましみたいですわね」
「…ナナシっ」
「レッドくん…!」

思わず立ち上がるボクと、駆け寄ってきてくれるナナシ。
面影はあるけど、すごく、大人びたというか…。綺麗になってた。思わずその姿に息を飲む。心臓がうるさい。
そんなボクの様子を見たエリカが、隣で「ふふふ、邪魔者は退出しますわね。あとは若い二人でごゆっくりどうぞ」と笑いながら退出していった。
どこのおばさんだ。



*



エリカがいなくなって、気恥ずかしさがその場を支配する。
さっきまで交わっていた視線も、いつのまにかお互い下を向いてしまっていた。

「……あの、レッドくんひさしぶり。元気だった?」
「うん。ナナシは?」
「わたしも元気だよ」
「よかった」
「背、高くなったね」
「…そう?」
「うん。前会った時は、おんなじくらいの身長だったから」
「10歳だったから」
「えっ、そんなに前だっけ?」
「うん」
「こないだのことみたいに覚えてるよ。変るもんだね」
「…ナナシも」
「え?」
「ナナシも、きれいになった」
「あ…、……ありがとう///」

再び俯くナナシ。横から見えた耳が赤い。

「あ、そ、それで、今日はどうしたの?」
「……?」
「エリカちゃんに、レッドくんがわたしを探してるって聞いて」
「ああ。……会いたかったから」
「なっ」
「どうしてもナナシに会いたくなって。会いに来た」
「……そ、そっか」
「ダメだった…?」
「えっ、あ、ちがうくて、あの、その…!」

顔を真っ赤にしながら、慌てた様子でコチラを向いたナナシに、ぐっと顔を近づける。
はう、とか、わわ、とか言葉にならない音だけを発しながら、ただただボクを見つめてるナナシ。(あ、顔が耳まで真っ赤だ。かわいい。)
なんか、変わらないな、こういうところ。
彼女の反応に懐かしさとかうれしさとかが込み上げてきた。安心感、もあるのかもしれない。

「わ、わたしも」
「………?」
「わたしも、レッドくんに、会いたかったから…!」
「!?」



会いに来た


これからもナナシと連絡を取り合うために、その後すぐにタマムシデパートにポケギアなるものを買いに行ったのは内緒の話。

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