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会いに行く


常に猛烈な吹雪であるシロガネ山山頂が、今日は珍しいことにダイヤモンドダスト。
こんなキラキラと輝く空気の日は、いつもナナシを思い出す。



*



まだボクがカントーを旅していた頃。
シオンタウンで1人の女の子と出会った。
ボクと同い年くらいの彼女がいた場所は、ポケモンタワー。
ポケモンの魂が眠るところ。

「本物の幽霊が出るらしいぜ」

グリーンにそう言われ、興味本意もあいまって、ボクはポケモンタワーを登った。
霧が立ち込めるそこには、亡くなったポケモンたちの冥福を祈る沢山のトレーナーが悲しい顔して参拝していたけど、ナナシだけは少し違った。

「〜♪〜〜♪」

どこからか聞こえてくる歌声に誘われるように階を登った頂上。
そこでボク達は出会ったんだ。

優しく澄んだその声は、淀んだ空気を浄化するようで、ひどく心地いい。
物陰に隠れながら、ボクはその歌声に聞き惚れていた。

「〜♪…あら?」

そんな矢先。
ピタリ、と歌が止まる。
不信に思ってそちらに顔を出して確かめれば、確かに彼女と目が合った。
ニコリ、と微笑む彼女。

や ば い ば れ た … !

反射的に顔を引っ込め、再び物陰に隠れるも、手遅れなのは分かってた。
こんな場所で隠れて女の子の様子を伺っていただなんて。
完全にただの変態だ。

どうしよう、という不安と焦燥の中、自分を落ち着かせるために深呼吸する。
目を瞑り、大きく息を吸って、ゆっくり吐き出す。
…よし、大丈夫。

「こんにちは」
「っ!?」
「あ、ごめんね。驚かせちゃったかしら」

突然間近で聞こえた声に驚いて目を開ければ、眼前にはあったのは顔。
それも、おそらくさっきの女の子の。
いきなり声をかけられたことも相乗して、心臓は異常なほどはやく脈を打っている。

「わたし、ナナシ。あなたは?」
「え、あ…。れ、レッド。…マサラタウンの、レッド」
「レッドくん…。よろしくね」

状況がよく掴めないまま、流されるように自己紹介を返す。
ふわり、と笑った彼女の笑顔は、霧で視界のわるいこの場所でもはっきり見えるほど暖かいものだった。

「よろしく、ナナシ」

それがナナシとの出会い。



それからボクとナナシは、たくさん話した。
話しをするうちに、彼女のいろんな事を知った。
ナナシはタマムシシティ出身で、エリカとは小さい頃からの仲だとか(バトルで勝ったと言ったら心底驚かれた)、普段はエリカの香水店を手伝ってるだとか、シオンタウンには親やトレーナーをなくしたポケモンの保護ボランティアのためによく来ているだとか、その延長でポケモンタワーにもよく足を運ぶだとか。
今日も、そのために来ていたらしい。

「…ナナシは、怖いとか思わないの?」
「へ?」
「ココ、お墓だから。それに、ボクのポケモンもさっきから怖がってバトル出来なくて。いつもは外に出てるピカチュウもボールに戻った」
「ああ、うん…。最初は怖かったんだけどね、最近はそういう風に思わないかな。わたし霊感とか全然ないから、よく分からないんだけどね。なんだか、見守られてる気がするの。だから、怖くないよ」
「見守られてる…?」
「うん、みんな寂しいだけなんだよ、きっと。だから、わたし時間がある時はココで歌ってるの」

ポケモンのふえ″っていう曲なんだよ。
そう言って、あの暖かい笑顔でそういう彼女のとなりは、とても心地よかった。

その後彼女に連れられて案内されたのは、小さな民家。
ナナシがボランティアでお世話になっている、フジという老人の家らしい。
あいにくその人とは外出中で会う事は出来なかったけど、前日母親をロケット団に殺されたというカラカラに会った。
寂しそうな声で鳴くカラカラに彼女が例の歌を歌えば、安心したように眠りだす。
そんなカラカラ達の頭を撫でながらナナシとまた沢山話をして、ボクは夕暮れと共にポケモンセンターに戻った。



次の日の朝。
旅支度を整えていると、慌ただしい音と共にドアが叩かれる。
開ければそこに立っていたのは、いまにも泣きそうなナナシ。

「おはよう。どうしたの?」
「レッドくん…。大変なの。フジさんが、フジさんが…!」
「ナナシ、落ち着いて。ゆっくり話して」
「う、うん…。ごめんなさい、気が動転して…」
「大丈夫。それで、どうしたの」
「…あのね、フジさんが、ロケット団っていう人たちに無理矢理連れて行かれたの」

どうしよう!と震える彼女を連れて昨日訪れた民家へ足を向ける。
昨日と同じでフジ老人の様子はなく、他にいたボランティアの人たちも焦った様子だった。
詳しく話しを聞けば、フジ老人はポケモンタワーに連れていかれたという。

「ナナシ、大丈夫。ボクが助けてくるから」
「レッドくん…。でも、だめだよ、危ないよ…」
「平気。ロケット団なんて人やポケモンを好き勝手にする最低な集団に、ボクは負けない」

だから、ココで待ってて。
そう言って他のボランティアの人たちにナナシを任せ、ポケモンタワーへ向かった。


再び訪れたそこは、昨日とは全く違う場所だった。

霧は昨日よりもずっと濃く、いる人間といえば参拝者でなく祈祷師(それも明らかに可笑しくなってる人たち)ばかり。
変わらない点といえば、やっぱりピカチュウたちは怯えてバトルすらままならないことくらい。
結界を張っているという祈祷師の人にはなしを聞けば、今朝から霊の気配が急激に強くなったとか。
何やらやたらろ不気味な雰囲気で「気をつけなさい」という忠告を受けながら最上階を目指せば、最後の階段の前でもっとも顕著な変化があった。

「タチサレ・・・ココカラタチサレ・・・・・・!」

どこからともなく聞こえてくる声と、浮かび上がる黒い影。
ポケモン…、ではなさそうだ。
え、まじ?

あ、これはまずいな、と直感でそう思った時、さっきまで怯えていたピカチュウがボールから飛び出し、黒い影でなくボクのリュックに飛びかかった。

「ピカチュウどうしたの、なにし」
「ピッカ!」

ご乱心ですか、と慌てて彼を引き離そうとすれば、得意げに白い機会を取りだした。
たしかタマムシシティでロケット団を倒した時に貰ったやつだ。
シルフなんとか…。

「ピーカ、ピカチュウ!」
「これを使えばいいの?」
「ピッカチュウ」

よくわからないけど、ピカチュウはボクよりしっかりしてるし。
ここは彼に従った方がいいのかも知れない。



*



そこからはトントン拍子だった。
なにやら心安らかに成仏したガラガラと、ロケット団(弱かった)3人を倒し、フジさんを救出。
彼をつれて民家に戻れば、異常なほどナナシに感謝され、そのうえフジさんからポケモンのふえ″というアイテムも貰った。

はじめてボクたちが出会った、ポケモンタワーの最上階。
そこで、僕らはまた他愛もない話しをしていた。
さきほどフジ老人に貰った笛を吹いてみれば、聞いた事のある音色。

「これ、ナナシがいつも歌ってたやつ?」
「うん、そうだよ。なんだか、心が落ち着く音色でしょ?」
「……あのガラガラも、きっとそうだったんだ」
「ん?ガラガラ?」
「ポケモンタワーの最上階で、ガラガラに会った。たぶん、あの家にいたカラカラのお母さん」
「え…。でも、あの子のお母さんは…」
「ボクも霊感なんて無いからはっきりとは言えないけど、たぶんそう」
「そっか。きっと、カラカラが心配だったんだね」
「うん。…だけど昨日ナナシがいたときにいなかったのは、きっとナナシの歌声に心が落ち着いたからだと思う」
「ええっ、わ、わたしの歌になんてそんなたいそうな効果ないよ、」
「ボクも、」
「へ?」
「ボクも、そうだったから。ナナシの歌、すごく、スキ」
「う、へ…///あ、ありがとう」
「うん…」

心地いい静寂が、ボクたちの周りを支配した。
なんだかナナシは恥ずかしそうにしてたけど、なんだかそれがボクにとってはかわいらしものに見えて。

「ねぇ、ナナシ」
「な、なあに」
「ボク、明日の朝この町を出るよ」
「……え?」
「2日間しか関われなかったけど、すごく楽しかった」
「……」
「ありがとう」



次の日の早朝。
ボクはポケモンセンターを後にした。
あの家やポケモンタワーにも、もう一度寄ってみようかと思ったけれど、そうしたらここから旅立てなくなる気がしてやめた。

風が、優しく吹いている。

「〜♪〜〜♪」

どこからか風に乗って聞こえた歌につられてボクも口ずさむ。
空気が、キラキラと輝いていた。



*



リュックから、長い間使ってなかったポケモンのふえを取りだす。
もう音が鳴らないかと思ったら、意外にもそれは何年も前のあの頃と変わらず、澄んだ音色を奏でた。

「……ナナシ、」


呟いた彼女の名前は、空の中に消えていく。
「ねえ、ピカチュウ」
「ピカ?」
「…今日は久しぶりに下山して、シオンタウンに行こうか」
「ピッカチュウ!」

いま何をしてるか何にも知らないけど、今日なら君に会える気がする。



会いに行く

続き

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