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鍔の意匠に日を追う毎に惹かれていく早苗だった。

趣味の木彫り然り、手を動かして何かを作り出す事が得意なのかもしれないと自覚した早苗は、徐々に自らも鍔を制作したいと思うようになった。
刀剣は刀身のみならず、鍔や鞘もそのものを形作る装飾品である。

鋼鐵塚は、いつからか鍔の図面を持ち出すようになった早苗に最早何も言うまいと諦めた様子だった。
早苗が描く鍔は、いずれも繊細さを表すよりも持ち主の芯の強さを示す武骨なものだった。

「どの刃物も、実用的に扱って欲しい。
物や人を断つ事が出来る道具が鈍だったら、そのものの意義がなくなってしまう。

…これを言ったら怒られるかもしれないけど…、俺からしてみれば刀剣も、包丁も鋏も同等のもの。作ってみるならば、どうせなら格好がいいものを作りたい」
「…言うじゃねぇか。てめぇも怖いもの知らずになったもんだ」
「鋼鐵塚さんと行動を共にしてたら当たり前だと思うけど。…この図面を元に、鍔を作りたい」
「…」

鋼鐵塚は暫し無言を貫くが、にやりと笑ったかと思うとあっさりと認めた。思わず喜びで飛び上がりそうになった早苗に、鋼鐵塚は続ける。

「二日の猶予を与えてやろう。
二日経っても、鍔が出来ないようだったら諦めな」
「…」

鋼鐵塚は不敵に笑い、早苗を見下ろした。

***

それからの二日間、早苗は寝る暇も惜しんで鍔の鋳型作りに励んだ。
その間も普段通りの生活があるのだから、早苗は時間を有効に使わなければならないと強く実感する。
やっと完成したのは、最終日の朝方だ。どんよりとした顔つきであるが、晴れやかである。これで熱した鉄を流し込めば完成する。

ゆっくりと鋳型に鉄を流し込んで早苗は気持ちが高まっていく。最後の一滴を流し終わってから、ふーと長い溜息をついて気持ちを落ち着かせる。
後は鉄を冷ましておくだけだ。

「…出来たぁ〜…」

余韻に浸っておきたかったが、一刻も早く鉄を冷まそうと早苗は鋳型を乗せていた台を外に持ち出す。

小屋の外は、いつも通りの朝を迎えていた。
遠くに見渡す山々の間から朝日が顔を出していた。
ふと、自分がこうしている間にも鬼殺隊の隊士達は鬼と戦っているのだと思うとやるせない気持ちに襲われる。

やがて、自分の作った鍔がいつか誰かの刀剣に備え付けられ、その人を護って欲しいと祈るばかりである。




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