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その日の夕方、居候先の鉄珍の屋敷に帰った後。

早苗は鋏を借り、不要の紙を自身の周りに敷くと鏡の前に座った。
今まで長く伸ばした髪を切断しようとしている。元より鍛冶作業をしている時に熱で顔に引っ付くのが邪魔だったので、楽になると思えばどうということは無い。
櫛である程度艶を戻し、前に垂らした長い髪をひと房手に取ると、小気味よく鋏で切っていく。


目の前に現れた早苗の姿を見ると、集会所にいた女性達は慌てた様子でその髪はどうしたのだと問う。

「早苗ちゃんの髪綺麗だったのに〜…!」
「分かった!鋼鐵塚が何か言ったんでしょ!?」
「またアイツ!?」

…何やら不穏な空気が漂い始めたので、早苗は慌てて自分の意思で髪を切ったのだと説明した。

「それにしたって… 早苗ちゃん、言ってくれれば髪を整えてあげたのよ?」
「自分でやったからボサボサになってるし…」
「うん、今からだって遅くない!
おじちゃん達に見られる前に整えておきましょ!」

あれよあれよという間に、早苗は集会所の別室に引っ張られ、短くなった髪型を整え直した。


髪を短くした事で、早苗は新しい自分に出会った気がした。

外見から入り、そして中身の順番だ。
早苗は別名として"鉄明"(てつあき)と名乗る事にした。
これは里から出奔したという曾祖父の名だ。
彼の名代として、そして己の成すことに責任を持ちたいという気持ちの現れで決めた。
自分で自分を名付けるなんて不思議な行為だが、気概を表すにはよい機会だと早苗は思った。




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