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早苗が別離した父の元を訪れたのは、きっかりと彼に別れの挨拶をしようと思ったからだった。
耀哉から求められた事に対する答えを出す前に行わなければならない事だと、彼女は理解していた。
どんな言葉を言われたとしても、11の歳まで自分を育ててくれた人物に対して、早苗は慈愛の心情を捨てずにいた。
目上の人を敬い目下の者を導く、彼女に礼儀作法を躾けた人物は父である。
であるからこそ、早苗は彼女自身の矜恃を持って今日まで生きてこれた。

日が沈まないうちに父を訪問しようと思っていると、耀哉が黒装束の人物を呼び戻し早苗を父の邸宅近くの界隈まで送ってくれた。
人目につかない所で早苗を降ろすと、黒装束の人物は終わったら呼び笛を鳴らしてくれと言うので早苗はしっかりと自分の荷物の中にそれを入れた。

邸宅の玄関先で早苗を出迎えたのは、母よりも若い女性だった。
早苗をみると女性はぎょっと驚いた顔つきになり、早苗から訪問理由を聞き父の書斎まで案内するまで、訝しがる目つきは変わらなかった。
小間使いの女だと早苗は認識していたが、女の目付きは無礼を通り越して居心地が悪い。

この時代に珍しい混血児に生まれた早苗は人前に出ると好奇の目、偏見に満ちた目に晒されたが、それでも挫けずに己を律することが出来たのは母のお陰であった。
母自身も、幼い時分に両親に連れてこられてこの異国の地である日本で育った経緯があり、沢山の罵詈雑言の言葉を浴びせられたという。

「…何の用だ」
「…父上にお別れの挨拶と、私のこれからの事についてお話をしたいと思いまして」

壁際に寄せていた書机に向かっていた父は咳払いをすると、早苗を連れてきた女に人払いさせる。去り際に女が父に意味ありげに微笑んだのを見て、早苗はようやくこの女は父の後妻だと気づいた。
早苗と面と向かい合った父は苦々しい顔つきであった。

「…信じられない話かと思いますが、母上は"鬼"という化け物に殺されました。私も殺されかけましたが、怪我だけで済みました。

10日ほど、"鬼殺隊"という集団の方々にお世話になり今こうして生き延びている次第です。」
「…話だけは知っている」
「…私は最早、以前のような生活には戻れないでしょう。ですから、父上に最後のお別れをしようと」
「お前の母親がどこで野垂れ死にしようが私の知ったことではない。お前ももう私の眷属ではないから、何処へなりとも行ってしまえ」
「…どうして、どうして父上は急に酷い事をおっしゃるのですか…」

早苗は父の非情な言い分に、心を打ち砕かれた痛みを感じた。

「お前の母とお前が私の汚点だからだ。お前が生きているから私の立場が悪くなる」

父の言葉をきっかけに、早苗の感情は揺れ動く。




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