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1999年9月某日



ハオと共に河原での生活を始めた螢と子供達。
真夏の暑さも多少和らぎ、過ごしやすい日々を送っている。

螢はハオから “基本的に金は使わず自給自足の生活をしている” と教えられたため、
食料の調達と称してよくオパチョと釣りをしていた。
とは言っても、キラ、サラの修行を行うこともあれば、散歩に出かけた際に必要なものを購入することもあるが。



「いいお天気。ね、たまにはピクニックでもしない?」

「「「 ぴくにっく? 」」」

「はは。子供達は知らないみたいだね」



オパチョはまだ幼いから知らないだろうと螢は思っていたが、キラとサラも口を揃えて首を傾げたことに驚く。
すぐに優しい微笑みを浮かべて三人の頭を順番に撫で、螢はわかりやすく説明した。



「ピクニックっていうのは、お弁当とか遊ぶものを持って、お出かけすることだよ」

「今の生活は、ぴくにっく じゃないの?」

「今は、キャンプになるかな。お出かけがピクニックで、生活はキャンプ」

「正確には少し違うけど、似たようなものか」

「そうだね。説明するのって難しい…
リュックにお弁当とか詰めてお散歩するって、ちょっとワクワクしない?」

「オパチョ、ぴくにっく してぇ!」



元気良く手を上げて返事をするオパチョに螢は慈しみの眼差しを向ける。
キラとサラも顔を見合わせて、小さく頷いた。

螢は事後承諾、と言わんばかりにハオに目配せをする。
仕方ない、と言いたげに苦笑し、ハオも頷いた。



「決まり!じゃあお弁当作るから、みんなお出かけの準備してね。ハオ、あのさ…」

「わかっているよ。僕が見てる。そろそろラキストも戻ってくるだろうし、留守は任せよう」

「ありがとう。何だかラキストさんに申し訳ないなぁ…」

「気にすることはないさ」



ラキストは朝早くから買い出しに出かけており、今は不在だ。
その間に出かけることを決め、留守を任せようとしている事に螢は申し訳なくなる。
ハオはまったく気にせず、オパチョ達を連れてテントの中へと戻っていった。
料理を作っている最中もオパチョの元気な声が聞こえてきて、螢は小さく笑う。


しばらく後にラキストが大量の荷物を抱えて戻ってきた。
螢はこれからピクニックに行こうと思っていること、留守を任せたいことをやはり申し訳なさそうに伝える。



「ピクニックですか」

「はい。ごめんなさい、お買い物に行っていただいてる間に勝手に決めていて…」

「お気になさらず。久しぶりにゆっくり読書が出来ますので、ありがたいくらいですよ」

「・・・弟達がいつもお手数かけてすみません」



共に暮らし始めてから知ったハオのワガママっぷりを思い返し、螢は顔を引きつらせながら頭を下げた。
その様子にラキストは苦笑し、互いに苦労しますな、と言った。

螢が来てからラキストの心労は軽くなっている。
子供達は少女にとても懐き、少女はよく世話を焼く。ハオにしても同じだ。
面倒を見る人数は増えたが、面倒を見る者も増えたことに関しては歓迎していた。



「螢。子供達の荷物入れるのないんだけど」

「あ、私のカバン使って?」

「わかった」

「ハオ様。ただいま戻りました」

「ああ。 ───苦労かけて悪いな、ラキスト?」

「!!! 滅相もございません!!!」

「こら。大人気ないよ」

「はは、冗談だよ」

「ハオの冗談はわかりづらいの!」



ハオは楽しげにくすくすと笑い、テントへと戻っていく。
その後ろ姿をラキストは冷や汗を流しながら見送った。

螢はラキストに向き直すともう一度 弟がごめんなさい、と頭を下げた。
慌ててそれを阻止し、荷物を片付けて手伝いを申し出る。



「螢様、お手伝い致します」

「ありがとうございます。けど、もうすぐ終わりますので…準備が出来てるか、見てもらえますか…?」

「承知致しました」

「すみません」



ほぼ準備が終わっていた螢はやんわりと断り、ハオ達の面倒をお願いした。
想定外にテントから出てこない様子に些かの不安を覚えたからだ。
ラキストは螢の気持ちを汲み取ると、すぐにテントへと向かった。

螢はバスケットに作ったばかりの弁当を詰めながら、聞き耳を立てる。
テントからはラキストの困惑したような声やハオとオパチョの楽しげな声が響いており、苦笑するしかなかった。
おそらく、ハオが真面目に子供達の面倒を見ていなかったのだろう、と思って。


周りに誰もいないことをいいことに、螢は寂しげな表情を浮かべた。
小指に煌めく色違いのピンキーリングを見つめ、そっと抱き締める。
穏やかに笑っていられる日々が続くことを願って。


螢の様子に気付いたハオは一人、テントの外へと出てきた。
音を立てぬように静かに見つめて心の声を聴いてみても、何もわからず。



「螢」



そっと名前を呼んでみる。



「準備出来た?」



振り返った螢は柔らかく微笑んでいて、気の所為だったのかと疑問に思うほどだった。
ハオも小さく微笑み、傍に近寄る。



「準備って程のことでもないよ」

「全然出てこなかったのに?」

「それはご愛嬌」

「ふふ…ラキストさん、かわいそう」

「そんなことないさ」



くすくすと笑い合う。
螢の準備が整ったタイミングでオパチョが元気良くテントから飛び出してきた。
その背には、見覚えのある小さなリュックを背負って。



「!」

「したくできた!」

「う、うん…」

「螢さま?どうした?」



驚いている様子の螢を見つめ、ハオはくすりと笑う。
まさか、と心に描かれる光景に、少年は肯定の言葉を投げかけた。



「懐かしいだろ?君がくれた物だよ」

「ハオ…まだ、持ってたんだ…」

「ああ。螢から貰った最初の優しさだからね」

「オパチョ、よくつかう」

「そうなんだ…」



ハオの優しげな声音に螢は胸が熱くなり、オパチョをギュッと抱き締める。

小さなリュックを大切にしてくれていたこと。
そこに精一杯込めた愛情に気付いてくれていたこと。
その優しさが繋がっていること。

心から嬉しくて。けれど何故か切なくて。
愛おしさが溢れて、涙に変わる。



「螢さま ないてる?どこかいたい?」

「違うよ。嬉しくて…泣けてきちゃった」

「?」

「ごめんね、オパチョ。 ……ありがとう」



螢は笑顔を浮かべ、全ての準備を終えるとみなで出かけた。
仲良く手を繋いで前を歩く子供達の背を優しく見つめ、少女もそっと少年の手を握る。



「…リュックは小さいけど」

「ん?」

「愛情は、たくさん詰めていたよ。今もきっと詰まってる」

「……ああ。わかっているよ」

「大切にしてくれて、ありがとう」



暖かな想いと微笑みに、ハオは言葉に出さずに感謝する。


僕を大切に想ってくれて、ありがとう


繋ぐ手に少しだけ力を込めてゆっくりと歩く。

どうか、穏やかに笑っていられる日々が続きますようにと、もう一度願って。
小さなリュックに精一杯込めた愛情が、彼らに幸せを与えてくれますようにと祈って。







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