妾は1000年前に亡くなった巫女
確かに巫女、だったのじゃ
妾は素より狐であった
人間の罠にかかり死を迎える寸前に助けたのもまた、人間じゃった
その者は神に仕える巫女で、妾はその者を好いておった
狐の姿のままでは巫女に迷惑がかかることを悟った妾は人間の姿に化け、
その者と同じく巫女として生きていた
巫女が死して尚
当時の妾は人間を好いており、巫女として尽くしたのじゃ
其れが正しい行いだと信じて疑ってはいなかった
───妾は戦の中で、死んだ
否、殺された
己の背に守ってきた者共に、殺された
いつの間にか、妾は恐れられていたのじゃ
死んで初めて 人間の醜い心を知った
同時に、妾の真の姿を知った
妾は、普通の狐などではなかった
妖狐であったのじゃ
九つの尾を持つ、妖狐であったのじゃ
人間の無病息災を祈り
星を詠み 神の声を伝え 戦の際には劔を持ち、先陣をきった───
そんな妾を、人間共は心無い言霊で嘲り
妾の亡骸を、八つ裂きにしたのじゃ
妾が人間を憎むのは、当然じゃろう?
妾は怒りと憎しみから怨霊となった
人間なぞ、醜くて救いようのない存在であると恨み続けた
恨んで 恨んで 恨んで
時に、其の命を奪ってきた
そんな妾を救ったのが螢じゃ
今と何ら変わらぬ
あのままの螢が、妾を救ったのじゃ
彼奴が妾に会って、何と申したと思う?
怨霊となった醜い妾を見て、彼奴は
「綺麗な巫女様」
…そう、申したのじゃ
螢の眼には、気高く生きていた頃の妾が映っていた
「清らかで、とても気高い」
おそらく妾は、そう在りたいと心の奥底では切望していたのじゃろうな
妾は巫女
己が怨霊である事実を認めたくはなかったのじゃろう…
苦しくて、憎くて、暴走する妾の魂を
───螢は、抱き締めてくれた
螢には妾の苦しみが、怒りが、憎しみが、哀しみが…
妾に巣食う醜きものが、全てわかっておった
しかし、憐れむでも、蔑むでも、嘆くでもなく、
慈しみだけで、妾を包んでくれたのじゃ
魂に負った傷まで包むかのように…
螢は、妖狐であっても、巫女であっても、構わぬと
どちらも真実 妾は妾なのだと
初めて妾自身を認めてくれた唯一の恩人
妾は哭いた
苦しみを吐き出すかのように
己をぶつけるかのように
ただ 哭き続けた
「私が傍にいるよ」
その言の葉に、どれだけ救われたか………
妾は螢を好いておる
生涯、この娘だけについてゆくと決めたのじゃ
たとえ其の身が朽ち果て、魂だけになろうとも
何年後も、何千年後でも
妾の主は唯一人
螢以外では務まらぬのじゃ───
[ 6/24 ]
[*prev] [next#]
[しおりを挟む]
[
戻る]
[
TOP]