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永い夜が明けた。
世界は何事もなかったかのように穏やかに、残酷な現実は今日も流れていく。
人々は不変のない世界で、目の前の “不変” を過ごしていく。

S.F.は変革と言えるだろう。
この世に生きるほとんどの者が知る事のない、世界の変革。

新たに生まれた神は二人。G.Sに残った者は、ごく僅かだ。
此度のシャーマンファイトで散った命のほとんどを、少年と少女は地上へと還した。



「…寂しくない?」

「寂しくないよ。螢が隣にいてくれるからね」

「よかった」



擦れ違い掛け違い、ようやく想いを通わせた二人。
今はG.Sに残ったパッチ族や狐珀もこの場にはおらず、“半神”(デミゴッド) のみ。



「…ね、ハオ」

「ん?どうしたんだい」

「ハオが狐珀を嫌ってる理由…聞いてもいい?」



それは螢が長年疑問を抱いていたこと。

狐珀がハオを嫌う理由は “螢が苦しんでいる原因” だったから。
そして、“自分から螢を奪るから” という嫉妬に近いものだった。
一番苦しめている元凶なのに、一番幸せにしてやれる人物である矛盾に腹を立てていたからなのだ。



「……正直、初めに嫌いだと思った理由は、自分でもわかっているけど理不尽なものだよ」

「そうなの?」

「ああ。あいつが狐だからって理由さ」

「……狐の子って呼ばれてたから…?」

「…ああ。狐珀も初めから僕につっかかってきてたろ?それで、余計に」

「そっか…」



螢は哀しそうな顔をする。
鬼の子、狐の子。そう呼ばれて石を投げられていた過去。それはとても悲しく痛々しいもので。

ハオも、狐珀も、互いに嫌い合う理由としては、切ないものだった。



「あいつの巫女姿を見た時、余計に嫌いになったんだ」

「乙破千代の言葉があったから…?」

「そう。“キツネは人に化けない” 。だが狐珀は化けていたからね」

「……ごめんね」

「君が謝ることじゃないだろ?あいつが悪い奴じゃないことくらい、わかっているよ。螢を大切にしているし、僕と似ているところもある。今は別に……特別嫌ってるわけでもない」



ハオの言葉は、狐珀としても同じなのだ。

ただ螢が大切で。自分を大切に出来ない相手とわかっているから、自分が守りたい。それは共通している。

ハオは愛慕で、狐珀は家族愛。
己の “一番” が同じだからこそ、反発し合う。
だが何かあれば、螢のためという理由で手を組める。今はライバルのような存在。

しかし素直でない二人は、互いに “お前が嫌いだ” と言い合うのだ。



「あいつには絶対聞かれたくないけどね。君の傍で、君を支え続けていたことには、感謝してるんだ」

「ハオ……」

「でも何千年後も僕らは変わらないと思うよ。螢の “一番” を争い続ける。…それで、いいんだ。対等、って事だからね」

「…うん。なら、私はずっと二人は私の “一番” って言い続けるね。何千年後でも」

「僕としては僕だけを “一番” って言ってほしいけど?」

「フフ…ハオのライバルを奪いたくないもの。私の一番はたくさんいるの」

「それは困ったな」

「仕方ないでしょう?私は欲張りなの。母様が好き。ハオが好き。狐珀が好き。葉も、アンナも、みんなの事が大好き。みんなの幸せが、私の幸せ」



螢はそう言うと、柔らかく微笑んだ。
その穢れのない美しい魂が隣にいることを選んでくれた。ハオはそれだけで幸せだった。



「……僕も、螢みたいに人を愛せるように努力するよ」

「無理しなくていいよ。ハオは母様と私のことを好きでいてくれれば」

「…ワガママだね?」

「うん。私はあなたの片翼だから。ワガママで、嫉妬深いの。掴まえててくれないと、寂しくてどっか行っちゃうよ?」

「どこにも行かせやしないさ。螢は僕のモノだ」

「ふふ…独占欲強いね?」

「君の片翼だからね」



顔を見合わせて、小さく笑う。
言葉もなく見つめ合い、引き寄せられるように、唇を重ねる。



「愛してるよ、螢」

「…私も。ハオのこと、愛してる」

「これからはたくさん時間があるんだ。色んなことを話そう」

「うん。ずっと傍に居てね」

「ああ。約束」



小指を絡め合い、もう一度微笑み合う。
右手の小指に輝くリングが、二人の絆を静かに物語っていた。







好きの理由も、嫌いの理由も
少しずつ分かち合っていこう

理解出来ない思いなんか
二人にはないから






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