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1999年10月某日



パッチ村全体が寝静まる真夜中の時間。
チーム・THE 蓮の三人が眠る宿舎の一室に、一人の少女が訪れた。



「コーロロ」

「クル?」

「みんなに内緒で、ちょっとだけ一緒にお散歩しない?」

「クックル!」

「ふふ、よかった」



少女は声を潜めながらホロホロの持霊へと声をかけると、彼らを起こさぬよう、コロロと共に外へと出かけていった。
少しだけ冷たい風は心地良く、木々のざわめきも、水面が揺れる音も、少しだけ懐かしく、心休まるものだった。



「ねぇ、コロロ」



宿舎から随分と離れた森の中に座った少女は、腕の中でにこにことする精霊へと呼びかける。
コロロは真上にある少女の顔を見上げ、どうしたの?とでも言うように首を傾げた。



「───あなたの本当の名前は、何て言うの?」

「!!!」



いつも通りの暖かく優しい微笑みを浮かべながら、少女はそう尋ねる。
そして、少女はゆっくりと手を伸ばし、“コロロ” ではなく、“幼い少女” の頭を撫でた。



「驚かせてごめんね。本当はね、あなたの言葉も聞こえているの」

「うそ…」

「ホント。私の目には、コロロとあなたの両方が見えているんだ」



みんなには内緒ね、と、少女はいたずらに笑う。
コロロ─── “黒部 民子” は、固まった。



「昔からなの。精霊とか、怨霊とか… “その姿” になる前の姿も、私には見えている。本来の魂の形が見えている、っていうのが、近い表現かな」

「…本来の、魂の形……」

「うん。だから気になっちゃって。人間だったあなたが、どうして精霊になってまでホロホロ君を支えようとしているのか。 …ホロホロ君からも、あなたからも、同じ悲しみを感じるから」

「……!!」

「話したくなければ話さなくていいよ。誰にもあなたの事は言わない。約束するわ」

「螢さん…」



“民子” は膝を抱え、ポツリ ポツリと己の最期を話した。
彼とは友達だった事。突然 突き放されてしまった事。彼の事情も、一族の事も知らなかった事。

何も知らなかったから、傷付けてしまったのではないか、と。
嫌われる事をしてしまったのではないか、と。
理由を知りたい。友達に戻りたい。何かしてしまったのなら、謝りたい、と泣き出した。



「……辛かったね」

「え……」

「泣いてしまう事も出来ないまま、ずっと傍で一緒に頑張ってきたんでしょ。民子ちゃんは強い子だね」

「螢さん…」

「大丈夫。ホロホロ君には民子ちゃんがついているんだもの。一人じゃない。どれだけ遠回りしても、ホロホロ君は辿り着くよ。どれだけ逃げようとしても、魂は偽れない。あまり力にはなれないけど、私も手を差し伸ばすから」



だから、一人で泣かないで、と抱き締める。
伝わるはずのない温度に、その暖かさと優しさに、心に溜め込んでしまった涙が止まることなく流れていく。


暖かくて、優しくて、不思議な人


己を見つけてくれた特別な瞳はとても綺麗で澄んでいる。
大地と民を守る事が精霊である己の使命なら。この人を全力で守りたいと、少女は願った。












───ありがとう、螢さん

ごめんなさい

あなたを、守りたかった







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