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2000年1月某日



「まさか会いに来るとは思ってなかったぜ。 ───螢」

「おはよう、チョコラブくん」



ゴーレムの騒動から一夜明けた早朝。
螢は地獄を巡り生き還ったチョコラブの元に姿を現した。

チョコラブは前を向いたまま螢の方を振り向こうとはせず。
螢もまた、チョコラブから距離を置いたまま傍には行こうとしない。


己を蘇生してくれたサティから色々と話を聞いていたチョコラブは、少女に対して複雑な思いを抱いている。

友であり、仲間であった事実。しかし今は敵側にいる事実。
そして、己を助けるためにガンダーラの元へと赴いたという事実。

どんな思いで行動しているのかわからないが、敵になったわけではないだろうことはわかる。
けれど、不可解な点が多すぎて、今は信じていいのか否か判断出来ない。
感謝すべきなのか、怒るべきなのか、問い質すべきなのか。
どれもが正しいようで、間違っているようにも思える。



「お前ェが “螢” って嬢ちゃんか」

「初めまして。あなたは?」

「パスカル・アバフ。コイツの師匠ってとこだな。嬢ちゃんの事はサティからも聞いてるぜ」

「そうなんだ。チョコラブくんを助けてくれて、ありがとうございます」

「っ!」

「………へぇ」



少女は深々と頭を下げる。
アバフはそんな少女をじっくりと眺め、興味深そうに笑みを浮かべた。


ただのお人好しってわけでもなさそうだな
こんなに裏っ側が見えねぇ奴も珍しい



「……オレに何の用だ?」

「伝えたい事があって来たの。みんなには、秘密にしてね」

「ワリーけどその約束は出来ねぇな。必要そうなら話すぜ」

「それでもいいよ」

「って、いいのかよ!」

「ふふ…チョコラブくんの判断に任せる」

「なんだそりゃ……」



自分達の元を去った時とは違い、あまりにも普段通りな螢の様子にチョコラブは脱力する。
奇妙な緊張感を覚えているのは己だけのようで、馬鹿らしさすら感じていた。

一つ溜息を吐くとチョコラブは口を閉ざし、用件を話せと態度で示す。



「………誰だって人に話したくない秘密がある。それが自分だけじゃなくて “誰か” を巻き込んだモノなら、尚更…チョコラブくんは、きっと理解してあげられる。どんな “闇” を持っていても、笑いの風で吹き飛ばしてあげて。いつかきっとこの意味がわかるから」

「………は?いや、全然わかんねぇよ…お前ェのこと言ってんのか?」

「ううん、違うよ。あなたの、大切な仲間のこと」

「お前さんも秘密だらけに見えるけどな、嬢ちゃん」

「否定はしないわ。けどいつか、必ず私の “真実” に辿り着く。葉もアンナもチョコラブくんも、みんな。だからその時までは、秘密は秘密のままにさせてね」



少女がそう告げた刹那。
目が眩むほどの閃光が迸り、火花が弾けるような音が辺りに響いた。



「「 !!!? 」」

「おい、螢!」

「………やられたぜ」

「マジかよ……」



確かに感じ取れていた螢の巫力が消え失せる。
アバフが閃光に視力を奪われた一瞬の隙に、少女は幻であったかのように姿を消してしまったのだ。
チョコラブが慌てて振り返った時には “そこに居た” 痕跡さえ感じ取れなくなっていた。まるで白昼夢を見ていたかのよう。



「なんだったんだ、一体…」

「特大のO.Sを爆発させるなんてな。怖ェ嬢ちゃんだぜ」



少女は後を追われぬよう、己の巫力を霧散させた。
やるべきことが、遺すべきものが、他にもあるから。

少女にはもう時間がない。
一秒たりとも無駄にはしたくないのだ。



「螢」



そんな少女の目の前に現れた、ひとつの影。



「…お父さん」



それは、“父” に当たる、幹久だった───






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