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第8廻 その娘、帰宅





1996年 元日
恐山



「一つ 積んでは父のため 二つ 積んでは母のため 三つ 積んではふるさとの 地蔵の身体のあやしさよ」

「アンナ!!!」

「うるさい!!!」

「! アンナ!?」

「おのれ、憎らしい。どいつもこいつも寄ってたかって何様のつもりだ」



憎い 憎い 憎い
なにが友達 なにが好意
心に土足で踏み込んできおって


アンナの心はひどく壊されていた。
苦しい、苦しいと魂が泣き叫ぶ。


誰にもあたしの苦しみなどわからぬくせに
いっそのこと 死んでしまいたいと思うほどに
憎み、妬み、恨む その苦しみが



「ではゆきますよ、葉さん」

「………わかった」



葉は涙を流しながら、心を決める。


それで良いのです、葉さん
あなたならば大丈夫
なんとかなる 素敵な言の葉ではありませんか



「憑依合体!!! さらばマタムネ!!!」



オイラ、絶対に忘れないからな
絶対また会おう
オイラ、ちゃんと強くなるから
約束だ



「マタムネは お前を倒すためにオイラと一つになったんだ!!! 大鬼!!!」



葉さん
あなたは全てを託し信じられる友達です

ですからどうか、葉さんも信じておやりなさい

大切な心のために

何があっても
あの娘を守りぬくのです





















「…行かせてよかったのかい」

「マタムネが決めたことだから」

「なら、もう泣くのはおよし。螢」

「うん…」



涙を拭い、堪える。
そうしないと、また溢れてきそうだからだ。



「おばあちゃん、またね」

「どこ行くんだい」

「神社近くの鬼退治。終わったらそのまま帰るから、葉のこと、よろしく」



それだけ告げると返事を待たず歩き出した。
心の中でもう一度マタムネに別れを告げ、しっかりと前を向く。




















「あたしは誰より世をウラんでいる…!」



でも、と言葉を続ける。

凍えきった心が、溶かされていく。
ひたすらに真っ直ぐで、暖かで、穢れのない心は強く優しく。


こんなあたしを好いてくれた その魂が
眩しくて 切なくて どうしようもなく ───愛しい



「あたしはこの男を愛してしまった」



薄れていく大鬼の攻撃からアンナを守り、マタムネに感謝と別れを告げ。
葉は、この哀しい戦いに、決着をつけた。






















「ただいまー」

「螢様!?」

「邪魔しちゃ悪いから、一足先に帰ってきちゃった」



面食らったように驚く麻倉家の者達に えへへ と笑いかける。
その瞳が少し赤く潤んでいることに、誰もなにも言わなかった。



「おかえり、螢」

「おかえりなさいませ、螢様」

「ただいま、たまお」

「…ん?螢、パパには?」

「パンツ1枚の変態仮面なんか、私のお父さんじゃありません」

「なっ!?」



冷たい態度を取り、自室へと向かう。
その後ろをトコトコと着いていく、小さな白い狐が一匹。



「螢様、あの、その子は…」

「ん、この子は私の持霊」



たまおの問いかけに後ろを振り向き、小狐をヒョイと抱き上げる。
ぬいぐるみのように愛らしい小狐は気持ちの良さそうな尻尾をユラユラと揺らし



「妾の名は狐珀(コハク)。忘れるでないぞ」

「は、はいっ!」



愛らしい声でそう言った。
たまおの持霊・ポンチとコンチが目をハートにしたのは言うまでもない。



「そこの二匹」

「!! はい、螢様!!」

「何でしょうか、螢様!!」

「わかってると思うけど、狐珀に変なことしたら承知しないわよ〜?」

「「 !!!! 」」



にっこりと釘を刺す。
螢には勝てないことを身に染みてわかっている二匹はガタガタと震え上がりながら、何度も頷いた。














「───覚悟は決まったのか」

「覚悟なんて、生まれる前からできてるよ」

「上出来じゃ」







彼奴は笑う
誠、面白い娘よ───








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