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第6廻 その娘、養子





1995年12月某日



「さ、帰ろう?」

「………」



屈託のない笑みで手を差し伸ばす。
アンナはおずおずとその手に己の手を伸ばし



「っ!!」



優しく、握られた。
慌ててその張本人を見れば、ヘラっというような笑顔。



「だいぶ冷えてるね。寒くない?」

「…平気」

「私は寒いよぉ!コタツが恋しい!」



いささか年上のこの少女は、本音を隠すことなく話しかけてくる。
己の本性を知っても、変わらず接してくれる。



「───螢」

「なぁに?」

「あたし…妹にはならない」

「!!」



効果音のつきそうなほど螢はショックを受ける。
だがそれも、次に紡がれた言の葉に再び優しい眼差しを取り戻した。



「と…も、だち、が、いい…」

「! うん!うわぁ、嬉しい!」



その言葉が嘘ではないことを、アンナはわかっていた。
ほんの少しでも。心を開いてくれたことが、嬉しい。
その思いだけが、螢の中にあったから。


お人好し…


そう思いながらも、拒絶されなかったことに安堵する。
暖かい手が、心が。こんなにも愛おしいと感じる。












「着いたー!けっこう歩いたね」

「…そうね」



そう言うと、アンナはそっと螢の手を離した。
心を無に。扉を開く。

その様子を、螢は静かに眺めていた。



「…おつかい」



アンナはそれだけ言い、殻に籠る。
それでも穏やかに、螢は見つめていた。



「…なに?」

「アンナの部屋は?」

「…あっち」



彼女の態度も言葉も意に解さず、螢は微笑む。


大丈夫、大好きだよ


その言葉だけを思って。











「アンナには、どんな言葉もなんの意味もないんだよ」

「そんなことない。おばあちゃん、久しぶり」

「………あの子には、もう会ったのかい」

「うん。友達だよ」



笑って、答える。
木乃は底知れないなにかを感じながら



「そうかい」



いつかのように、それだけ応えた。



「ねえちゃん!」

「お帰りなさい、螢さん」

「ただいま!遅くなってごめんね」



もう、あの娘の心に入ったのかい
なんて子だよ、まったく


コタツに入り蜜柑を食べる孫を見つめ、木乃は息を吐いた。

14年前、葉の父・幹久が連れてきた正体不明の赤子。
出自もなにもわからぬが、“螢” と書かれた紙切れ1枚を握り締め、泣きもせずに幹久を見つめていたという。
連れて帰る以外の選択は、まるで思いつかなかったそうだ。

導かれるように赤子を抱き上げると、愛らしく笑った。



「葉。風呂入っといで」

「おー」

「小生もお供しましょう」

「いってらっしゃーい」



赤子のくせに泣くこともなく。
いつでも笑って、手を焼かせることはしなかった。

半年後には式神を喚び。
一年後には陰陽術を扱った。

誰に教わるでもなく、言葉も理解出来ていないだろう赤子が。



「…螢」

「葉には、言ってないよ」

「…まるでお前さんも心を読んだかのようなことを言うねぇ」

「意識すればね」

「なに?」

「冗談だよー」



困ったように、にっこりと笑顔を浮かべる。



「血は繋がってないけど、弟であることには変わりないし」

「お前さんはいつから知ってたんだい。話してないだろう」

「物心ついた時には意識してたよ。だってお父さんにもお母さんにも似てないじゃない」

「………」

「追い出されるのは困っちゃうけどねー」

「なに言ってんだい、馬鹿孫」

「ふふ、よかった。ありがとう、おばあちゃん」








私の2つの夢が叶うまで
誰も、なにも知らなくていいの

答えは、魂が知っているから










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