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第3廻 その娘、ブラコン





1989年 某日



「………あの子達…」

「───あぁ、麻倉さんの…」



ヒソヒソ、と聞こえてくるのは悪意の言霊。
齢4つの麻倉葉は、その言葉をグッと堪え、俯きながら歩いていた。
手を繋いでいた少女は優しく葉に笑いかけると



「ちょっと待っててね」



そう言い、今しがたの声の主の元へと向かっていった。
名を、螢と言う。



「こんにちは」



ランドセルを背負った螢は子供らしい笑顔で挨拶をした。
明らかな憎悪の眼差しを向ける “人間” に、屈託のない笑みで。



「ねぇ、おばさん達。知ってる?人のこと悪く言ってばかりの人は」

「…っねえちゃん!!」

「鬼に喰われちゃうんだよ」

「「 きゃぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁっ!!!! 」」



冷酷な微笑みを浮かべ、霊を見えぬただの “人間” にすら視認できる程の巫力を持って鬼を具現化させる。
もちろん、本物の鬼などではないのだが。



「ごめんなさい、は?」

「き…っ気味の悪い…っ!!」

「ふぅ〜ん…反省しないんだ。じゃあ、」

「ねえちゃん!!」

「もういいよ」



恐ろしすぎる巫力をほんの少し解放し、“鬼に喰われる” 幻想を作り上げる。
笑っているようで笑っていない、冷徹な笑みを貼りつけたまま。



「「 ───っごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!! 」」



婦人達が恐怖のあまり放った言葉を受け、螢は鬼を消した。
そして貼りつけたような笑顔を向け



「次、弟になにか言ったら、地獄に落とすから」



誰にも冗談と捉えられぬような声音で言い放った。



「お待たせ。さ、帰ろう」

「ねえちゃん…」

「ん?」

「…あんがと」



その言葉には柔らかな微笑みを返し、手を握って家路を急ぐ。








ねえちゃんは、どんな時でもオイラを守ってくれる




大好きだもの、守るの










鬼の子と呼ばれようとも 化け物と罵られようとも 私は───










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