幼なじみたちクラスメートの声を背に、突然意識を失ったアイツを背負って連れ帰ったものの、ベッドに寝せて、それから――どうするか。

 「ンっ…」頭を枕に預け渡した瞬間、際どく切ない声をあげたのを聞いてしまったから、心臓がばくばくいっている。
 不思議といまだこの部屋に充満しているような雰囲気。俺まで、倒れそうだ。別の原因で。

 自らの両頬を挟むように叩く。
 なんて邪なんだ、しっかりしろ、コイツは今具合が悪いんだ。いつもの無意識、けして誘ってるとか、そんなんじゃないんだ、けして。

 ぐるぐる回って好き勝手絡みだした思考を、ため息と共に吐き出して、気持ちを改める。

 ――さて。
 ただの寝不足だから寝せておけばいいと保険医は言っていたが、ひとりにしておくにも不安だし、かといって熱があるわけでもないから看病の必要もない。
 見ているだけ、というのも性に合わない。

 横になって休むには少し窮屈そうな制服から、俺が着替えさせるわけにもいかない、し。…いや、首もとくらいならセーフか?
 眠るには、スカーフを緩めたほうが楽だろう。

 それくらいなら、と、ピン目掛けて手を伸ばす。端から見たら寝込みを襲っていると捉えかねない状況に、ははっと乾いた苦笑をついた。
 どうしようもないなー、俺。

 スカーフをほどけば、先ほどよりも呼吸が安らかになった。
 顔色も青みが引いてきていて、いつもの淡いぴんく色。口に含んだら甘い味がしそうだ。
 苺とも砂糖とも蜂蜜とも違う甘さだろう。
 これは邪な気持ちじゃない。単なる純粋な興味、探究意欲だ。なら、舌にのせるくらいの味見なら、しても許されるだろうか。

 チロ、舌先で、頬を嘗める。無味。味覚が伝達した情報はそれだけのはずなのに、俺の気持ちは形容し難い甘さで仕方ない。
 一度だけと心に誓って臨んだにも限らず、いざやってしまえば"一度だけ"なんて自制は出来なかった。

 薄く開いた唇に、自分のそれを被せる。
 呼吸が苦しくならないように、という配慮だけは忘れずに、もう一度、もう一度だけ、と心中で繰り返しながら。

「ゆっくり眠って、お姫さま」

 そして起きた時は、一番にその瞳に俺を映して欲しいな。



空で見つめて




→空を見上げて

(091205)

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