プロローグ
とある船の甲板に美しい歌声が響きわたる。
海に沈む太陽が空をオレンジや紫に染めあげ、月が追うように空に昇り始める時間帯。
「ヨウカ」
1人の男が声をかけると、歌声は止み男の視線の先にいた少女は振り向いた。
「兄さん」
「ここは冷える。そろそろ中に入りなさい」
「……もう少しだけ」
そう答えて、少女は海に視線を戻した。
少女の兄はため息を吐いて、着ていた上着を少女の肩にかけて隣に立つ。
穏やかな空気が漂う。
パァン
一発の銃声がその空気を引き裂いた。
撃たれたのは少女。
着ていた白いワンピースが赤く染まっていく。
兄の目の前で撃たれた少女は、驚愕で見開かれた瞳で自分を見る彼に微笑った。
「さよならだね、兄さん」
「っヨウカ!!」
甲板から海へと少女は身を投げた。
少女が落ちた水音を背後に聞きながら、兄は人を呼び少女を探させ、撃った人間を捕らえさせた。
雲行きが怪しくなってきたのを目の端に、男は既にこの世界からいなくなった少女を探させ続けた。
それは太陽が沈みきった頃のこと。