「やだ」
「…何でよ?」
「いつもと何か違うんだもの」
「そう?そんなことないと思うけど?」
ベッドに縫い付けられるアルエと縫い付けている犯人、レイヴン。
何やら不穏な空気が流れているようだが、それは気のせいではないようだ。
「たまには、強引なのもイイでしょ」
にんまりと笑みを浮かべながらアルエの頬を撫で上げる。
嫌にひんやりとした手だけに反応し、身体が震える。
「やめて、そんな気分じゃ…っ」
手を突っぱね、自身からレイヴンを離そうとしたが、突っぱねた手を逆に取られ、顔の横に押さえ付けられてしまう。
「じゃ、その気にさせてあげる」
その言葉と同時にチクリ、と首筋に軽い痛みが走る。
「レイヴン、あなた…!」
レイヴンを押し退け、鏡で首筋を確認する。
決して服では隠れないような位置に刻まれたキスマーク。
アルエは鏡を前に顔面蒼白状態だが、一方でレイヴンはその様子をニヤニヤと楽しそうに眺めている。
「ちょっと…こんなところ…っ」
「良いじゃないの、アルエちゃんが誰のものか…すぐにわかるでしょ?」
全く悪びれた様子のないレイヴンを軽く睨み付けてやる。
そんなアルエを見て、レイヴンが軽く笑う。
「そんな怖い顔しなさんなって」
――可愛い顔が台無しよ?
なんて言葉は言われなかったが、表情からそう言いたそうなことは目に見えた。
ムスッと不貞腐れていると、くしゃくしゃと頭を撫でられ、アルエは顔を上げる。
「ね、アルエちゃん」
「ん…」
「続きしたいな」
そっと抱き締めながら囁いてやる。
「…だめ」
「へ?」
抱き締められる力が緩んだのと同時にアルエがレイヴンの腕から離れる。
「だめなの!今日は、だめっ」
「え、えぇ…」
しょんぼりとしているレイヴンを余所に、アルエはレイヴンの頭をぺしぺしと数回叩き、
「また今度、ね」
と呟いた。
「今度って何時なのかね…」
アルエが居なくなった己の手を眺めながら肩を竦める。
「レイヴン」
「んー?」
「やっぱり、いつものレイヴンだったね」
「…どういう事?」
――その、押しの足りなさ、とかかな。
自分で嫌だのやめてだの言って拒否している癖に、結局は押し留まってくれるレイヴンに少なからず物足りなさを感じるのは我が儘だろうか。
始めは強引だったから期待はしていたのだけれども。
「ね、アルエちゃん、どういう事よ?」
「え?あ、あぁ…」
「まったく、自分から言っておきながら黙りってねぇ…」
「えっと…そうね、いつも通り優しいってこと、かな」
「ふーん…?」
アルエの回答に些か不服なのか、納得していなさそうな表情をされた。
「本当に優しい人なのかね、おっさんは」
急に声音が明るくなり、そんな台詞を言われたかと思うと、アルエは再びレイヴンの腕の中にいた。
「ちょ、レイヴン!」
「やっぱり離さないー」
「だめだって!やめ、ちょっと…」
ずるずるとレイヴンに引き摺られながらアルエが叫ぶが、レイヴンはお構いなしにその場からベッドへと押し倒そうとする。
「アルエちゃん、間違ってるわよ」
「な、なにがっ」
――優しい人ならこういう風に押し倒そうとするわけないじゃない。
「さーあねぇー」
強引≧優しさ