「 魔王城へようこそ…? 」
「フハハハハハ! 勇者とその仲間たちよ! よくぞここまで辿り着いたな! この先には、我が魔王軍十傑衆がひとり 『かえんどくりゅう』 が待っている!」
魔王城へと向かう私たちの行く手を阻むように突如現れたのは、忘れもしない。
私の大事な妹… スヤを連れ去った、憎き魔王だった。
「 『かえんどくりゅう』 だと…!?」
「何もかもを焼き払い、溶かし尽くすという、あの…っ!?」
十傑衆のひとり 『かえんどくりゅう』 がこの先に待っている… その言葉にアカツキたちは動揺を隠せない様子。 しかし私は不思議でならなかった。
この先に待つという 『かえんどくりゅう』 の存在を、ご丁寧にも声高らかにして教えてくれることに、とても違和感を覚える。 これでは予め対策をしろと言っているようなものじゃないか。 罠…?それとも、私たちなんて相手にならないとたかを括っているの…? 魔王の狙いが分からず、思わずキッと睨みつける。 相手もちょうどコチラを見ていたようで、カチリ、と目と目が合った。
「っ、」
「……」
その間、僅か1秒程度。 先に目を逸らしたのは、魔王。 少し気まずそうに見えたのは気のせいだろうか…? そんな疑問が頭をよぎった、その時。 魔王の口がまたしても開かれた。
「き、貴様たちなど、我輩が手を出さずとも葬ってくれよう! せいぜい 『かえんどくりゅう』 に 『焼き殺されんよう気をつける』 んだな!」
「ッ、!」
「っ!? お待ちくださいっ! ナマエ様…っ!」
魔王の足元に渦巻く真っ黒なワープ。 彼がここから立ち去るつもりなのだと分かったその瞬間、私の体は無意識に動いていた。 私を呼び止めるアカツキの声が聞こえたが、そんなの構っていられない。
「んなっ!? っ、な、なな何をっ」
「絶対に、逃がさないんだから…っ!」
この場から去ろうとする魔王に勢い良く突っ込んで、ガシッとその体にしがみつく。 敵が目の前にいるというのに、みすみす逃がしてなるものか…! そんな強い気持ちが私を突き動かした。
「っ、いや、ちょ、はっ、離せっ… って、力強いなっ!?」
「うるさい…っ! スヤを…っ スヤを返して…っ!」
「っ!? あ、ちょ、待て…っ! ワープが発動して、あっ…」
離せともがく魔王に、私は決死の覚悟で想いをぶつける。 『スヤを返して』私の切実な言葉に、彼は一瞬たじろいだ。 …よし、今だ!! 攻撃の合図を送ろうとアカツキに視線を向ければ…
「ナマエ様っ!! 今すぐ魔王から離れてください…っ! あなたまで居なくなったら、俺はーー」
シュンッと、目の前から悲痛な表情を浮かべたアカツキの姿が消える。 一体何が起きたの…? ぱちりと瞬きをし、まぶたを開いた私の瞳に映ったのは、
「…ここは …お、城?」
「っ、どうして…っ! どうしてこうなったぁああっ!?」
月明かりに照らされた、妖しくそびえ立つ大きなお城。 そして私の隣には、頭を抱え叫ぶ魔王。
「(もしかして、私… 魔王城に、ワープしちゃった…?)」
こうして、私の魔王城での生活が始まったのである。
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