気づいたの





「好きな、ひと…?」
「うん。 好きな人」

ナマエの口から放たれた言葉を無意識のうちに繰り返す。 そんな私の様子をニコニコと見つめる目の前の彼女は、面白そうにまたもや同じ言葉を繰り返した。 …ちょっと待って。 あまりに予想外すぎて、理解が追いつかない。

「正直ね、悪魔の私に恋なんて出来るわけないって、そう思ってたんだけど…」
「……」
「出来ちゃった。 好きな人」
「…っ、相手は、誰なんだい」

黙り込む私なんてお構い無しに、彼女は話を続ける。 こちらをからかうかのように楽しそうな声色で語る彼女の姿に辛抱ならなくなった私はついに口を開くけれど… 出てきた声のなんと余裕のないことか。 本当に情けない。 情けないが… 悠長にそんなことを言っていられる状況ではない。 彼女の口から放たれた言葉たちが、今も現在進行形で私の心をこれでもかと抉っている。

「んー… 言わなきゃ、ダメ?」
「っ、ダメなわけでは、ない、けど…っ」

こてんと首を傾げる愛らしい姿と言葉のギャップに、心が折れそうになる。 確かに。 私に教えなければならない理由など、ありはしないけれど… !

「…私の好きな人が、気になる?」
「っ、そりゃあ、そうだろう!? 私にとって君は…っ、」
「…レオくんにとって、私は? 何?」
「っ、ッ…!」

カマをかけるような彼女の態度に、つい感情的になってしまう。 だけどそんな私の反応を予想していたのか、ナマエは冷静に私に問い返してきた。 その真っ直ぐすぎる問いかけに、私は思わず言葉を詰まらせる。 今までずっと伝えずにいた、この気持ち。 それを今、伝えるべきかどうか… そんな迷いが私を襲う。

「…私ね、気づいたの。 "恋が出来ない" のは、"すでに恋をしていたから" だって」
「えっ…?」
「私の好きな人はね、今までずーっと、そばにいたんだけど、最近は人間の姫を構ってばかりで、それがちょっと面白くなくて…」
「っ、!」

突然話を切り替える彼女に私は呆気に取られる。 かと思えば、唐突に彼女は好きな人の特徴をペラペラと話し始めた。 …ちょっと待て。 その特徴に思い当たる人物がひとり…!

「ま、まさかナマエの好きな人って、魔王様…!?」
「もぉーっ! にぶいなぁ…! なんでそうなるのっ?」
「えっ!?」
「私の好きな人は! 蘇生魔術が得意で、炊き込みご飯とおはぎを作るのが上手で、」
「っ、ッ!?」
「温かい魔玄米茶が好きで、最近は温泉にハマってて、だけど全然腰痛が治んなくて、」
「ちょっ、ちょっと、待って…っ!」

新たにどんどん出て来るナマエの好きな人の情報に、私の脳はパンク寸前だった。 だ、だって、それじゃあ、まるで…っ!!

「これで私が誰を好きなのか、分かってくれた…?」
「っ、〜〜!!」

照れ臭そうに、少し頬を染めながら。 そんなとんでもなく可愛い表情で問いかけられて。 私の中で、それは確信へと変わっていく。

「ふふっ、それじゃあ答え合わせ、しよっか…?」
「これでドッキリとか、やめてくれよ……?」

不安げに呟く私にナマエは 『そんなことしないよ』 そう言って、柔らかく笑うのだった。



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