愛しの君は誰の手に





「僕、ナマエ先生のこと、ずっと可愛いと思ってたんですよ」
「えっ!? あ、ありがとうございます…っ」

わいわいがやがや。 騒がしい居酒屋の店内で。 堂々と女性を口説き始める男−− イフリート・ジン・エイト。

恥ずかしげもなく甘い言葉を吐く彼に対し、口説かれている女性−− ナマエは、思わず声を上擦らせる。

いくら飲みの場とはいえ、ここはあくまで仕事の延長線上。 ふたりの周りには他にもたくさんの同僚たちがいる、この状況で。 まさかこのようなことになるとは思いも寄らなかったナマエ。

唐突に繰り出されたイフリートからの攻めの一手に、ナマエは何と返事をすれば良いのか… うまく言葉が出て来なかった。

「今度はさ、ふたりで飲みに行かない?」
「えっ、あ、あの…っ」
「…冗談なんかじゃないよ? 僕、割と本気で口説いてるつもりなんだけど?」
「っ、ッ〜〜!!」
「ひゅ〜!! イフリート先生、やるぅ〜! いいぞいいぞ! くっつけくっつけ!」
「っ、! ちょ、ちょっと、何言って−−」

すぐ近くで聞き耳を立てていた同僚からの遠慮のない冷やかしの声に、ナマエは慌てて声をあげるけれど。

そんな彼女の言葉を遮るようにして、ひとりの男が突然。 名乗りをあげた。

「っ、ちょっと待ったぁ!!」
「「え、…?」」

ナマエとイフリートが座るテーブルから少し離れた先。 ガタッと腰を上げ、大きな声で待ったをかける男−− ムルムル・ツムル。 彼の表情にはどこか。 焦りが滲んでいる。

「抜け駆けすんなって…っ! 俺もナマエ先生のこと、ずっと可愛いと思ってたんだから…!!」
「っ、ッ!? つ、ツムル先生まで、何を−−」
「ナマエ先生…っ! 俺とイフリート先生、どっちがタイプ!?」
「えぇっ!?」
「っ、そんなの僕に決まってるでしょ! ね!? ナマエ先生っ!」
「えっ、えっと、そのっ、私は−−」

自分を選んで、と。 必死になってアピールする彼ら。 そんなふたりからの熱い告白に、ナマエは戸惑いを隠せない。

だけど、ここで曖昧にしてはあまりにも失礼だ、と。 ナマエは心を鬼にする。

ナマエが出した答え… それは−−


「実は私も、イフリート先生のこと…」

「いつも相談に乗ってくれるツムル先生のことが…」

「実は私、カルエゴ先生のことが…」

「実は私ダリ先生と…」




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