Just as planned!





「ダリ先生とナマエ先生って、付き合ってるんですか!?」
「「えっ?」」

バビルス校内の、とある廊下にて。 肩を並べて歩くダリとナマエの背に向けて、ひとりの少年が大きな声で叫び、問いかける。

その少年の名は、シャックス・リード。 問題児アブノーマルクラス所属の彼は、クラスメイトのアンドロ・M・ジャズと共に教室の移動をしている最中だった。

時は、授業終わりの休憩時間。 彼らの居る廊下には、もちろん。 たくさんの生徒たちが、行き交っている状況で。

リードの声に、皆。 ピタリと動きを止める。 彼らの視線は当然の如く、ダリとナマエに向けられていた。

「なっ、なな、何を言って…っ」
「あはは。 ナマエ先生、顔真っ赤じゃん」
「照れちゃって、かーわいー!」

生徒から突然の。 思いも寄らぬ質問に、顔を真っ赤に染め上げるナマエ。 そんな彼女を揶揄うように、ジャズが笑いながらそれを指摘する。

普段は冷静でしっかりした印象のあるナマエがこんなにも、ウブな反応を見せるとは思わず。 彼らのテンションは高まる一方だ。

「それで? ふたりは本当に付き合ってるわけ?」
「っ、そ、そんなわけないでしょう…!」
「えー? でもさでもさ! ふたりって、いつも距離が近くない?」
「えっ…?」
「今だって、めちゃくちゃくっついて歩いてたじゃん!」
「っ…! そ、そんなことは…っ!」

いくら問題児アブノーマルなふたりとはいえ、何の根拠もなく目上の存在であるナマエとダリを揶揄うほど非常識ではない。

"ダリとナマエが付き合っているのではないか?"
そんな噂は兼ねてから、生徒たちの間ではすこぶる話題となっていて。

職員室で何やら楽しげに話し込んでいるところ。
仲良く裏庭のベンチで昼食を食べているところ。
1本のストローで飲み物をシェアしているところ。

その他にも、仲睦まじいふたりの姿が度々目撃されているのだと、あらゆる所から聞き及んでいたリード。 そして先程、ついに。 ふたりの仲の良さが窺える場面に、ばったりと遭遇。

自身の目にしかと焼き付けた彼は、思わず。 ふたりの関係を問いただす言葉を口に出して叫んでしまった、というわけである。

「ダリ先生!! ぶっちゃけどうなの!?」
「んー? そうだねぇ…」

ナマエからはこれ以上の情報は得られないと判断したリードは、その標的をダリへと向けることにしたようだ。

交際などしていないとすぐに否定をしたナマエと打って変わり、ニコニコと楽しそうに黙って様子を眺めていたダリ。 リードから名指しで質問をされた彼は、うーんと何かを思案する素振そぶりを見せる。 しかし、それも束の間。

これまたニッコリと。 満面の笑みを浮かべながら、彼はその口を開く。

「みんなのご想像に、お任せするよ!」
「「「「「っ…!!」」」」」

たったひと言。 彼が発したその言葉に、辺りはざわざわと騒めき始める。

"やっぱりあのふたり、付き合ってたんだ…!"
"でも、あのダリ先生の言葉だぜ…? 冗談って可能性も…"
"いや…! さっきのナマエ先生の反応… あんな風に赤くなるってことは、現実味あるんじゃない?"

そんな憶測があらゆるところで飛び交い、気がつけば。 遠巻きに見ていたはずの野次馬たちは、ダリたちの周りを囲むように集まり始めていて。

予想外に盛り上がりを見せるこの状況に、問題児アブノーマルであるリードとジャズも、面白くなってきたと心躍らせる。

やはり自分たちの予想は間違っていなかったのだと、確信を得るべく。 リードはさらに質問を繰り返す。

「え〜っ!? なになに!? やっぱりふたりって、そういう関係!?」
「ちょ、ちょっと…! 何を言ってるんですか! ダリ先生…っ!」
「あはは、めちゃくちゃ焦ってますね! ナマエ先生!」
「っ、何を呑気なことを…! 早く訂正しないと…っ」

今の状況を楽しむダリやリードたちとは裏腹に、ナマエの心臓は、それはそれは痛いくらいに。 鼓動を刻み続けていた。

実際のところ、ふたりの関係は恋人… というわけではなく。 ただの、同僚。 確かに仲が良い方ではあるけれど、それ以上でも以下でもない。 元来、相手との距離を詰めるのが上手いダリ。 誰とでも分け隔てなく接することの出来る彼は、ナマエだけが特別というわけではなく、他の教師とも割と近い距離で関わっているはずだ。 …というのは、ナマエの私見である。

"自分だけが特別ではない" 。 それはナマエがいつも、自分に言い聞かせている言葉だった。

そう。 何を隠そう。
ナマエはダリに、恋心を抱いていた。

話し上手な彼との、楽しい会話。 イタズラ好きで、少し意地悪なところ。 一緒にいる時、何故か妙に距離が近いところ。

そんな彼の全てが、ナマエを惑わせる。 そうしていつの頃からか。 彼への感情が、恋へと形を変えるけれど。 どうにかここまで、必死に押さえつけてきたのである。

それが今。 どうしてこんなことになっているのか。 ナマエの頭は、理解が追いつかない。 こんがらがる思考回路を必死に働かせ、何とか冷静になろうとするけれど…

「訂正、しなくて結構ですよ」
「えっ…? っ、きゃぁっ」

耳元で囁かれるとほぼ同時、腕をぐいっと引かれる感覚に、ナマエは思わず小さな悲鳴をあげる。 バランスを崩し、転びそうになる彼女の腰を引き寄せたのは、他でもないこの男ダリ

「これでも、ずっとアピールしてきたつもりなんだけどなぁ。 …僕の気持ち、伝わってません?」
「っ、な…ッ!?」

公衆の面前。 それも教え子たちの目の前で。 まさかまさかの、公開告白。 そんな何ともロマンチックな展開に、周りにいた女子生徒はきゃあきゃあと黄色い声をあげている。

恥ずかしげもなく。 どろどろに甘いセリフを吐くダリに、告白を受けた当の本人は、まるで茹で蛸のように顔を真っ赤に染めていて。

「っ、だ、ダリ先生…っ、はっ、離して…っ」
「ん〜… さすがにここじゃ、答えてくれないか。それじゃあ…」
「っ、ちょっ、! な、なにして…っ!!?」

ナマエの背の高さに合わせるようにして、腰を折るダリ。 彼女の目と鼻の先には、ダリの顔。 その瞬間、彼女の鼻腔をくすぐったのは、大好きで堪らない控えめな香水の匂い。

ハッと我にかえり、慌てて距離を取ろうとするナマエだったが、それよりも僅かに早く。 ダリの唇が彼女の頬へと優しく触れる。

「続きは今夜、僕の部屋で… なーんて言うのは、どうです?」
「っ、ッ〜〜!!!」

ダリが色っぽく囁いた、その直後。 ワァッ!と本日最大の盛り上がりを見せる、野次馬たち。 まるでドラマのようなふたりのやり取りに、若者たちのテンションはMAXだ。

そんな中。 一番の特等席で、ダリとナマエのやり取りを一部始終眺めていた、リードとジャズ。 ふたりのお熱い雰囲気に当てられて、何も口にすることが出来なかった彼ら。 周りの生徒たちとは若干の温度差が生まれていたが、それも致し方ないことだろう。

「…ねぇ、ジャジー」
「…どうした、リード」
「僕たち、上手いこと利用されただけなんじゃ、」
「おいおい、皆まで言うなって。 そんなの、すげー悔しいだろ…」

周りが皆、祝福モードへと突入している中、複雑な心境であるリードとジャズはコソコソと会話を始める。

トントン拍子に進んでいった、今回の一連の流れ。 全てダリの手の平の内だったのでは? と、ふたりはそんな結論に辿り着く。

ほくほくと。 満足顔を浮かべるダリの姿を見て、少し悔しくなるふたりなのだった。



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