この先もずっと





※このお話は、短編集の『嫉妬なんかよりもずっと』の続編となります。 "問題児アブノーマルクラスが、バビルスを卒業した数年後" のイメージで作成しております。



「それでは、新郎新婦のおふたりへのご祝辞を頂戴したいと存じます。 まずはじめに、悪魔学校バビルス教師統括でいらっしゃいます、ダンタリオン・ダリ様よりお言葉をいただきます。 ダリ様、どうぞよろしくお願いいたします」

煌びやかな広い会場。 天井にはキラキラと輝くシャンデリア。 点々と配置されたテーブルには、着飾った様々な年代の男女が席につき、たった今、司会者が紹介をしたダリへと視線を向けている。

用意されたマイクの前へ移動し、優雅に一礼をするダリ。 顔を上げた彼はにこやかな笑みを浮かべながら、マイクに向かって、揚々と口を開いた。

「ただ今ご紹介にあずかりました新郎新婦の上司、ダンタリオン・ダリと申します。 僭越ではございますが、私からひと言、ご挨拶させていただきたいと思います」

人前は慣れたものだと、彼はスラスラと前口上を述べていく。 形式的な言葉を終えてひと息つくと、彼はくるりと会場前方へと体を向き直す。 そして…

「まず初めに… カルエゴくん、ナマエさん! この度はご結婚、おめでとうございます!」

本日の主役である、カルエゴとナマエに向けて。 心からのお祝いの言葉を口にした。

今、この場で行われているのは、カルエゴとナマエの "披露宴" 。 教会での式を終え "夫婦" となったふたりが披露宴会場へと入場し、高砂たかさごへと辿り着いたのが、つい先ほどのこと。

純白の美しいウェディングドレスと黒の格式あるタキシードを見事に着こなす、ナマエとカルエゴ。 まさに絵になるふたりの姿に、ついつい見惚れてしまった者も少なくないだろう。

そんな彼らへの、本日初めての祝辞の言葉。 その大役を任されたのは、ふたりの直属の上司であるダンタリオン・ダリ。

笑顔で自分たちを祝福する言葉をくれる彼に対し、カルエゴとナマエはぺこりと軽く会釈をする。 そんな彼らの反応を見届けたあと、ダリはまた流暢に。 その口を開き始めた。

「ふたりが新任としてバビルスへやって来た日のことは、今でも鮮明に覚えております。 まず、カルエゴくんの第一印象ですが… とにかく暗い! 眉間にはいつも皺! 会話も長くは続かない… おっと、ついうっかり! 第一印象だけではなくなってしまいましたが、そこはご容赦を!」
「っ、また、あのひとは調子に乗って…!」
「ふふっ」

持ち前のトーク力を存分に活かした、冗談を交えながらの楽しいスピーチに、会場はあははと笑いに包まれる。 揶揄われた本人であるカルエゴは少し不満げに悪態を吐くが… その姿にもまた、ナマエはクスッと笑いが込み上げた。

「そんな無愛想な彼でしたが、仕事は完璧。 文句をつけようにもつけられない。 そんな上司泣かせの男… さらには誰も寄せ付けないオーラをずっと醸し出していたのですが… それが突然。 あるひとりの女性と出会い、彼の纏う空気は格段に柔らかくなったのです。 そう、その女性が………… ナマエさん! あなたです!」
「っ、も、もう…! ダリ先生ったら、大袈裟な…っ」
「スピーチの人選を間違えたかもしれん…」

まるで演説でもしているかのような口調で、大袈裟に語るダリ。 そんな彼の言葉にナマエは恥ずかしそうに身を縮こませる。 カルエゴも思わず、はぁと、小さなため息をひとつ。

しかしふたりの反応とは裏腹に、会場は 『おお〜!』 と大盛り上がり。 …ただの主賓挨拶のはずなのだが、そこはご愛嬌。 楽しいことがモットーの彼は満足げに笑みを浮かべると、さらに言葉を続けた。

「その後ふたりが交際を始めたと報告を受け、驚きはしたものの… ふたりが纏う穏やかな空気感を肌で感じ、すぐに納得がいきました。 そんなふたりが今日、互いの伴侶となり、新たな一歩を踏み出す… こんなにも嬉しいことはありません」
「ダリ先生…」
「……」

今度は声のトーンを少し落とし、穏やかな表情で。 まるで息子と娘を見るような、親しみを込めたその言葉と表情に、ナマエはじぃんと胸が熱くなる。 先程まで、悪態を吐いていたカルエゴも。 今はただ、黙って彼の言葉を噛み締めているようだ。

「これから、仕事と家庭の両立に悩むことがあるかもしれません。 だけど、ふたりならきっと大丈夫。 私たちも同僚として、精いっぱいサポートさせていただきます。 …さぁ、建前は以上! ふたりの輝かしい未来をお祈りして、お祝いの挨拶とさせていただきます。 どうか末永くお幸せに!!」

最後は、最も彼らしい楽しげな笑顔で。 ふたりの門出を祝福するダリ。 最後まで皆を楽しませ、見事な挨拶を終えた彼に、会場からは割れるように大きな拍手が沸き起こる。

「ダリ先生らしい楽しくてあったかい、素敵なスピーチだったね」
「……まぁ、悪くはなかった」
「ふふっ。 素直じゃないんだから」

ダリからの温かい言葉を、しかと胸に刻み込んだナマエ。 一方、これまた悪態を吐くカルエゴだったが、それが照れ隠しなのは誰の目から見ても明らかで。 そんな彼の相変わらずな態度に、ナマエはまたしてもクスッと笑いが込み上げた。

「ダリ様、大変素敵でユーモア溢れるお言葉、ありがとうございました。 …続きまして、おふたりのご友人であり同僚のバラム・シチロウ様よりお言葉を頂戴いたします。 バラム様、どうぞよろしくお願いいたします」

ダリが席へと着いたタイミングで、司会者が新たな人物の紹介を始める。 続いてのスピーチは、カルエゴの同級生であり、ふたりの様々な相談事に乗ってきた苦労人、バラムが行うようだ。

名前を呼ばれた彼は少し緊張した表情を浮かべながらも、しっかりとした足取りでマイクの前へと移動する。

そして綺麗に一礼をすると、ナマエとカルエゴに向けて。 満面の笑顔でその口を開いた。

「カルエゴくん、ナマエさん。 この度はご結婚、おめでとうございます。 僕は今日という日が来るのを、それはそれは心待ちにしていました。 …というのも、ふたりにはこれまでに色々とありまして…」
「…? バラム先生、何を言うつもりなんだろ…?」
「……シチロウのやつ、何を企んでいる?」

まずは一般的な挨拶通り、祝福の言葉から始まったバラムの祝辞。 しかし、何やら意味深に言葉を途切れさせる彼に、ナマエはこてんと、その首を傾げた。

一方、彼とは長い付き合いであるカルエゴ。 バラムの語り口調に、何かを感じ取ったのか、訝しむように彼へと視線を向ける。

「今だから言いますが、ふたりが交際を始めた当初から。 …いや、交際を始める随分と前から。 カルエゴくんはナマエさんにベタ惚れだったんです」
「っ、ッ−−!?!?」
「っ、ッ〜〜!!」

カルエゴの嫌な予感は見事的中。 しかしまさか。 友人であるバラムしか知る由のない自身の恥ずかしい過去を、これからもずっと関わりを持つであろう大勢の者の前で暴露される羽目になるとは、微塵も思わなかったカルエゴ。 思わず立ち上がりそうになるが、今日は自分たちの晴れ舞台。 無様な姿は見せられないと何とか冷静になり、思いとどまる。

嘘を見抜ける能力を持つと知られているバラムの言葉である以上、信憑性は充分。 そんな彼からの突然のカミングアウトに会場はまたしても大盛り上がり。

ヒューヒューと冷やかすような声も飛び交う中、思いも寄らぬカルエゴの過去を知り、ナマエは顔を真っ赤に染めあげる。 まさか、そんな… と思う一方、バラムが嘘をつくはずがないという期待がムクムクと膨れ上がり、カアッと熱くなる頬。

そんなふたりのなんとも微笑ましい姿に、バラムは満足そうに笑みを浮かべる。 そしてそのまま、彼は言葉を続けた。

「そんなカルエゴくんがナマエさんと交際するに至るまで… それはそれはたくさんの苦労がありました。 それを語るにはあまりにも時間が足りないので、本日は割愛させていただきますが…」
「えぇ〜!? 聞きたい聞きたい〜!!」
「もったいぶらないで教えてよ〜! バラム先生〜!」
「っ、あんのっ、阿呆どもは…っ! こんな日にまで面倒なことを…っ!」
「でも、私も少し… どんなことがあったのか、聞いてみたいかも、なんて…」
「っ、ッ〜〜!! お、お前は知らなくていい…っ!」

またしてもカルエゴの恥ずかしい過去を匂わせるような発言をするバラム。 そんな面白そうな話を聞いて、あの問題児アブノーマルたちが黙っているはずがない。

バラムの言葉に反応を見せたのは、案の定。 バビルスに在校時、カルエゴがずっと担任を務めていた問題児アブノーマルクラスのひとり、ウァラク・クララ。 そして彼女の言葉に便乗する、シャックス・リード。 毎度おなじみ、賑やかしのふたりである。

そんな彼らの相変わらずの問題児っぷりに、カルエゴの口から出たのはやはり悪態ついた言葉。 今度こそ立ち上がり、彼らを止めに入ろうかと本気で考える彼だったが… すぐ隣から聞こえてきた言葉に、ピタリと動きを止める。

ポッと頬を染め呟くナマエの姿は何とも愛らしく、胸にクるものがあるが、しかし。 自身の恥ずかしい過去をこれ以上知られるわけにはいかないと、カルエゴは慌てた様子で彼女に言い聞かせた。

問題児アブノーマルクラスの面々が座るテーブルでも、同じように。 入間やアスモデウスが、クララとリードを黙らせようと四苦八苦している姿が見える。

そんないつもと変わらない皆の姿に、スピーチ中であるバラムは思わず苦笑い。 落ち着いた頃合いを見計らい、バラムはまたしてもスピーチを再開した。

「そんなこんなで、何とか無事にナマエさんとの交際を開始したカルエゴくんでしたが、皆さんがご存知の通り。 堅物である彼は、見栄や意地から素直になれず、ナマエさんに寂しい想いをさせてばかり。 しかし、そこで彼らを救った男がひとり。それは… 我らが救世主、イフリート先生です!」
「っ、ぅえっ…!? ちょっ、バラム先生!?!?」

先程のダリ然り、暗いだの無愛想だの見栄っ張りだの意地っ張りだの… 今日の主役であるはずのカルエゴに散々な言いようであるが、それはさておき。 一体何を話すつもりなのかと会場の誰しもがバラムのスピーチに聞き入っていた中、前振りもなく突然。 話題に出されたのは、彼らの同僚であるイフリート・ジン・エイト。

温かい会場の雰囲気を呑気に楽しんでいた彼だったが、まさか自分に白羽の矢が立つとは思いも寄らず、目を見開き驚いている。

そんな彼の反応も何のその。 バラムは穏やかな笑みを浮かべたまま、さらにスピーチを続けた。

「当時、ふたりは交際していることを公にしていませんでした。 そんな中、イフリート先生からの横恋慕が入り、ふたりはすれ違い… そうになったけれど、そこでカルエゴくんが男を見せたことで何とか仲直り。 その件がきっかけで、カルエゴくんの愛情表現はあからさまになっていったと記憶しています。 当て馬のように扱われたイフリート先生には同情しかありませんが…」
「ちょっとちょっと! バラム先生! それは僕の黒歴史なんですから…!」

さらりと。 自身の黒歴史までもを暴露するバラムに、イフリートは慌てて立ち上がる。

『若気の至りってやつです…! もちろんおふたりのことは心の底から祝福してますからね…!?』 そう言って続けざまに必死に叫ぶイフリートの姿に、会場はまたしても笑いに包まれる。 ある意味では、愛のキューピッドである彼に 『よくやった!!』『よっ! ナイス当て馬!』なんて声を掛ける者もちらほら。

「そうやって、色んなことを乗り越えてきたふたりはきっと、これからもずっと強い絆で、同じ道を歩んでいくことでしょう。 おふたりの幸せを心よりお祈りしています」

そう言って、ぺこりと一礼をするバラム。 若干2名の犠牲者 (カルエゴとイフリート) が出たものの、たくさんの笑顔に包まれた祝辞の言葉は無事に、終わりを迎えた。

続けて、乾杯の挨拶。 歓談。 ケーキ入刀、ファーストバイト。 お色直し。 キャンドルサービス。 テーブルでの写真撮影、などなど。

披露宴は滞りなく、賑やかに。 進行していく。

押し寄せるゲストたちの波が落ち着いたころ、ふうと小さく息をつき、高砂から会場を見渡すナマエとカルエゴ。 ふたりはこの場に居られる幸せを、これでもか噛み締めていた。

「みんながたくさん祝ってくれて、本当に幸せですね」
「……ああ、そうだな」

互いに忙しい身であるナマエとカルエゴが、ここまで盛大な披露宴の準備をするには、かなりの時間と労力を要していた。 時には互いの意見がぶつかり合い、モメることもしばしば。しかし、そんな苦労など。 目の前の光景を見ればなんてことはないと、ふたりは感慨に耽る。

同僚、友人、教え子、家族。 皆が楽しそうに会話をし、笑顔を浮かべて食事をしていて… 自分たちのために集まり、心の底から楽しみ、祝福してくれている。 これ以上の幸せはないと、ふたりの胸に溢れてくるのはただただ感謝の気持ちだけだった。

「さて、ここからのお時間は、新郎新婦のおふたりにも少し、お寛ぎいただければと存じます」
「?? …あれ? こんな予定、入ってたかな?」
「……いや、俺は何も知らされていないが、」
「「「「カルエゴ先生! ナマエ先生! ご結婚おめでとうございます!!!」」」」
「「…!!」」

しみじみと会場を見守っていたふたりだったが、ここで。 まさかまさかのサプライズ。

問題児アブノーマルクラスの全員が、ナマエとカルエゴの元へとやって来たのだ。

「僕たちからのサプライズプレゼントです! 受け取ってください!」
「っ、これって…っ」
「これは…」

彼らの中心に立つ入間が、満面の笑みで差し出したモノ。 それは…

「超超超!ビッグサイズのフォトボード!!」
「先生たちが出会った頃からの写真、集めるの大変だったんだよ〜?」
「ふたりが一緒に映ってる写真も少なかったしなぁ」
「でもさ、突然一緒に映ることが増え始めたけど、それって…」
「さっきバラム先生が言ってた "イフリート事件" の頃からじゃない!?」
「こら! 勝手に事件にするんじゃない! 聞こえてるぞ! 問題児アブノーマルたち!!!」

大きな額縁を飾っているのは、何枚もの写真たち。 いつの間に撮られていたかのか、そこには… ナマエとカルエゴが共に映り込んでいる姿が、たくさん散りばめられていた。

職員室で何やら共に作業をしているところ。 校内の廊下でこっそりと会話しているところ。 収穫祭のテント張りにふたりして苦戦しているところ… そんな何気ない日常を切り抜いた光景が、美しくデコレーションされていて。

それはまさに、サプライズ。 感激のあまり、ナマエの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。 珍しく、あのカルエゴでさえも、驚きや喜びから言葉を失っているようだった。

そんなふたりの様子に、問題児アブノーマルたちも嬉しさが込み上げる。 しかしどうにも気恥ずかしい。 この空気に耐えられなくなったリードはおちゃらけた態度でフォトボード作成秘話を語り始めた。

そしてその流れで、またもや被弾するイフリート。 ハッキリと聞こえた自分を馬鹿にする言葉に、すかさず注意を入れる。 そんな彼の楽しげなツッコミに、会場はまたしても笑いに包まれた。

「本当に、ありがとうみんな…!」
「…お前たちにしてはなかなか。 センスがあるじゃないか」
「こ、こんな時でさえ素直になれないなんて…! 絶対ナマエ先生、これから苦労するよ!?」
「っ、お前はまた余計なことを…っ」
「ねーねー!! エギー先生! ナマエ先生! これ持ってみんなで写真撮ろー! 写真!!」
「おっ! クラりんさっすがー! 撮ろう撮ろう! …あ! オペラさーん! シャッターお願いしてもいいですかー!」
「! もちろんですとも。 お任せください」

無事にサプライズも成功し、安堵の表情を見せる問題児アブノーマルたち。 そんな彼らへ、ナマエは素直に感謝の言葉を伝える。 一方、ぶっきらぼうながらも精一杯の言葉を伝えるカルエゴ。

素直になれない彼に対し、リードは大袈裟なまでのリアクションを見せる。 余計なことを言い始めた彼に対し、カルエゴがひと言物申そうとした、その時。

記念撮影をしようと提案する元気一杯のクララの声が会場に響き渡る。 まさにこれ幸いと、カルエゴのお叱りから逃げるようにして、リードは近くのテーブルに座っていたオペラへと声を掛けた。

「はーい、撮りますよー… こら、カルエゴくん。 全く笑っていないじゃないですか。 ニッコリですよ、ニッコリ」
「っ、カメラマンの交代を要求する…っ!!」

快く、リードからカメラを受け取ったオペラが構えた、その瞬間。 彼の口から出たのは、カルエゴへの嫌味なひと言。 すぐさまカメラマンを変えるよう声をあげるカルエゴだったが、そのような意見が通用するはずもなく…

「もーっ、カルエゴ先生!! 今日くらい眉間の皺、取りなよー!!」
「そうでござる! 自分の結婚式まで、暗黒大帝にならなくていいんでござるよ!!」
「もっとナマエ先生とくっつけばいいんじゃない!?」
「はは、そりゃいいや! 鼻の下デレデレに伸ばしたカルエゴ先生が見れたりして…?」
「ッ…! お、おい、貴様ら…っ、押すんじゃない!」
「っ、わわっ、ちょっと、みんなっ、ストップ…っ、きゃあ…っ」

お祭り気分の問題児アブノーマルたちを止められる者などこの場には居らず。 もっとくっつけくっつけと、上下左右から。 ギュウギュウと押し合う彼ら。

そんな彼らの力に、ふたりが敵うわけもない。 ピタリと触れ合う、腕。 かすめるほど近距離にある、互いの頬。 そのあまりの距離の近さに、体は一気に熱を帯びていく。

「…これはこれは。 私も中々いい仕事をしたのでは? 来世の職はカメラマンですかね」
「……こんなカメラマンがいてたまるか」

オペラが撮影した写真の中央には、ピッタリと寄り添い頬を染めるナマエとカルエゴの姿がしっかりと収められていて。 それはそれは、満足そうに、来世はカメラマンだと呟くオペラ。 もちろん、そんな彼に対して、カルエゴが素直に感謝の気持ちを伝えられるわけがないのだが…

「おや? 随分と口の悪い新郎ですねぇ。 ナマエさん、彼に愛想が尽きたら、いつでも私の元へ来てくださいね。 あなたなら大歓迎です」
「えっ!? えっと、それは、ちょっと…」
「っ、何を言うんだアンタは…っ!」
「ちょ、ちょっとオペラさん…! さすがに今夫婦になったばかりのふたりにそんなことは…!」
「ふふふ、冗談ですよ。 冗談」
「……アンタが言うと、冗談に聞こえないんですよ」

真顔でとんでもないことを言ってのけるオペラの意地の悪さに、辟易とするカルエゴ。 こんなおめでたい日になんてことを言うんだと焦る入間に対し、オペラは呑気に笑っていて。

その穏やかな笑顔を見て、一気に毒気が抜かれたカルエゴ。 自分の反応を楽しんでいる彼に対して思うところは多々あるが、彼もまた。 自分たちを祝福してくれているのには違いない。

「( ………あぁ、俺は本当に、幸せ者だな )」

すぐ隣には、優しく微笑みかけてくれる美しい妻。 周りには、自分を先生と呼んで慕ってくれる生徒たちと、頼もしい同僚たち。 そして、意地は悪いが何かと頼りになる先輩…

カシャ。
突然鳴り響くのはシャッター音。
その音の出所へ視線を向ければ、ニヤリ。 楽しそうにほくそ笑むオペラの姿がカルエゴの視界に入る。

「……今、私を撮りましたか」
「とても良い顔をしていましたよ、カルエゴくん」
「…今すぐ、その写真を消してください」
「嫌ですよ。 この写真は、バビルス校内のありとあらゆるところに貼り出して周るんですから」
「っ、こんの、性悪め…ッ!!」

やはり前言撤回だと、カルエゴは自身の考えをくるりとひっくり返す。 このひとを少しでも見直した自分が馬鹿だった。 そう後悔せざるを得ないカルエゴ。 そんないつもと変わりないふたりのやり取りを、ナマエは微笑ましげに見守るのだった。




「いやぁ… ほんっと、最高の結婚式だったねぇ」
「笑いあり、サプライズあり、涙あり… ナマエ先生の手紙朗読が感動的すぎて、もらい泣きしちゃいましたよ…」

そう言って、ズズっと鼻をすするのはムルムル・ツムル。 問題児アブノーマルたちのサプライズが終わったあとも楽しい時間はどんどんと過ぎていき。 ナマエの両親への手紙朗読、新郎の締めの言葉。 ゲストの退場とお見送りを経て、披露宴は無事、終了を迎えた。

そして披露宴会場を後にした教師陣一行は、現在。 続いて行われる結婚式の二次会の会場へと向かっている。

「イルマくんたちのサプライズも良かったですよね! ナマエ先生、うるっと来てたみたいですし」
「それに、ダリ先生のスピーチも! やっぱり人前で話すの上手ですよね」
「いやぁ、それほどでも! でも、それを言うなら… バラム先生の "イフリート事件" ! あれは傑作だったなぁ。 …ね? イフリート先生!」
「せっかく楽しい気分で終われたのに…! 掘り返さないでくれます!?」

ダリの揶揄うような言葉に、噛み付くように言葉を返すイフリート。 間違いなく本日1番の被害者である彼だったが、もちろん。 本気で怒っているわけではない。 むしろ、あの場を盛り上げる一助になれたことを誇らしくさえ思っていた。

そんな彼の考えをきちんと理解しているバラムやダリだからこそ、こうして笑いのネタにできるのである。

そうして会話をしている間にも、二次会が開かれる会場へと辿り着く教師陣。 二次会の幹事を任されているバラムとスージーは先に会場に入っているようだ。

「…さて、他所行きの建前は以上! ここからは無礼講ですよ、皆さん! 二次会では、我らが同僚のおふたりナマエとカルエゴを、これでもかと弄り倒してあげましょう!」
「「「はーい!!!」」」

それはそれは楽しげに。 今日1番の盛り上がりを見せる教師陣。 あとから遅れてやって来る、ナマエとカルエゴを楽しませるため。 気合を入れる、彼らなのだった。



短編一覧へ戻る




- ナノ -