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「レオくん、こっち向いて?」
「どうしたの、ナマエちゃ… んむっ」

可愛らしい声で名前を呼ばれ、振り向いたと同時。 唇に触れたのはひんやりとした感触。 視線を下へと下げていけば、彼女の細い指が私の唇に何かを押し当てているのが視界に入った。

「もう。 早く食べてくれなきゃ、溶けちゃう」
「溶けるって、んっ…」

口を開いた瞬間、何かを放り込まれる。 直後、口の中に広がったのは、香ばしいカカオの香り。 彼女が食べさせてくれたのは、甘さ控えめのチョコレートだった。

「ふふっ、やっと食べてくれた」
「っ、じ、自分で食べられるのに…」

嬉しそうに笑う姿がとんでもなく可愛くて。 心臓をギュッと掴まれたような感覚に、思わず悶える。 そんな自分に気づかれないように強がって見せるけれど、彼女はまた柔らかく笑うだけだった。 …やはり彼女には全て、お見通しのようだ。

「私に食べさせてもらうのは、イヤ?」
「…っ、そ、そんなことは、ないけど、」
「それじゃあ、もういっかい」
「ッ、ちょ、待っ…っ、んっ」

私がこんなに可愛らしいお願いを断れるわけがない。 それが分かっているのか、私の返事を待たずにナマエちゃんはもうひとつ、チョコレートを指で摘んだ。 ハート型のチョコを持った指が、こちらへ近づいてくる。 何だか無性に恥ずかしくて、待ったをかけるけれど。 ちょん、と唇に押し当てられれば、食べる他ない。 ナマエちゃんの指の熱で少しだけ溶けてしまったのか、先程よりも少し柔らかくて、とても甘く感じる。

「レオくんが早く食べてくれないから…」
「…っ、」

『溶けちゃった』 そう言って可愛らしく笑いながら、チョコレートが付いた人差し指をぺろりと舐めるナマエちゃん。 その姿が妙に色っぽく見えて、気がつけば。 私は彼女の細い手首を掴んでいた。

「っ、レオくん…?」
「それも、頂戴」
「えっ、? …ッ、ひゃっ」

彼女の指に付いたチョコレート。 先程彼女がぺろりと舐めた部分を、口に咥える。 そして、舌で絡め取るように舐めれば、彼女の口からは可愛らしい声が溢れた。

「っ、もう! レオくんっ、何して…っ」
「これも、私のチョコレートだからね」
「ッ〜〜!」

してやったり。 自信満々に告げると、ナマエちゃんの頬はみるみる内に真っ赤に染まっていく。

「美味しかったよ、ナマエちゃん。 ありがとう」
「っ、レオくんのばか…っ」

先程までとは形勢逆転。 少し余裕の出来た私がお礼を告げると、悔しそうに呟くナマエちゃん。 ぷくっと頬を膨らませる姿に愛しさが込み上げてくる。

「…レオくん、私にも食べさせて?」
「ふふっ、いいよ。 はい、あー…」
「指じゃなくて、」
「…えっ?」
「こっち」
「んっ、」

私が指で摘んだチョコレートは、すぐにナマエちゃんに奪われて、そのまま私の唇へと運ばれる。 はむっと、私がチョコレートを咥えた、その瞬間。 ズイッと近づいてくる、ナマエちゃんの顔。 むにゅっと柔らかい感触が、私の唇に触れる。

「ッ、なっ、いっ、いま…っ、」
「ふふっ、ごちそうさま」
「ッ、〜〜!!!!」

ぺろっと自分の唇を舐めたあと、楽しそうに笑うナマエちゃん。 そんな彼女に、私はタジタジになることしか出来なくて。 …結局、私は彼女には敵わないのだと、改めて実感するのだった。


Happy Valentine's Day !
// 2023.2.14


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