これでも、まだ



「冗談は、やめてください」

然程、大きくない声にも関わらず。 しっかりと耳に届く声。 "好きだ" と伝えた直後、ハッキリとした拒絶の態度を向けられた男−− ダリは、悲しそうに笑った。

「冗談だなんて、ひどいなぁ」
「どうして私なんですか? ダリ先生なら、他にもたくさん素敵なひとが…」

そう言って俯く目の前の同僚−− ナマエ。 俯き露わになった彼女のつむじを眺めながら、ダリの胸に込み上げてくるのは "愛おしくて仕方ない" そんな気持ちだけだった。

「僕にとって素敵だと思える子は、君だけなんだよ」
「っ、そ、んなこと…」
「それを決めるのは僕であって、君じゃない」
「だ、けど… だからって突然… 好き、だなんて…」

戸惑いを隠せないのか、彼方此方に彷徨う視線。 困ったように "突然だ" と言う彼女の言葉に、ダリは少し強引に口を挟む。

「突然なんかじゃない。 ずっと好きだった」
「…っ、」
「君が新任としてここに来たあの時から。 僕は君に惹かれていたんだよ」
「そんなの、信じられるわけ…っ、んぅっ」

信じられないと言うナマエの言葉に、ダリの体は無意識のうちに動き出す。 彼女の細い腕を掴み、自身の方へと引き寄せて。 もう片方の手は、頬へと添えながら。

重なり合った唇は想像以上に柔らかく、甘くて。 もっと、もっと、と。 そんな欲が顔を出す。

何度も角度を変えながら、ふたりは甘いキスを交わしていく。

「…これでもまだ、冗談だと思う?」
「こんなの、ずるい、です…」

名残惜しげに唇が離れた、直後。 鼻先がくっつくほどの至近距離で。 ダリが口にした言葉に対して、ナマエは少しいじけたように言葉を返す。

その可愛らしい仕草が、言葉が。 彼女の気持ちが自身へ傾いていることを表していて。 ダリは思わず、破顔した。

「ずるくて結構。 僕が本気だってこと伝わるなら、なんだってするよ」
「ダリ、先生…」
「好きだよ、ナマエ先生」

今度こそ、伝われ、と。 ナマエの耳元で囁いた言葉は、しっかりと胸に届いたのか。 顔を真っ赤に染める彼女が視界に入る。

そんな愛らしい反応が、堪らなく愛おしくて。 ダリはもう一度、彼女の唇を奪った。


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