チョコから始まる、君との恋



「これ義理じゃなくて、本命なので」

そんな素っ気ない口ぶりとは裏腹に、真っ赤に染まる頬。 さらには予想外すぎる言葉が彼女の口から放たれて、ダリは思わず瞠目する。

「これは、驚いたなぁ。 てっきりナマエ先生には嫌われてるものだとばかり、思ってたのに」

2月14日。 バレンタインデー。 女性も男性も、誰もが心なしかソワソワと浮き立つ日。

そのような日に、まさかのまさか。 すっかり嫌われているとばかり思っていた相手から "本命チョコ" を手渡されるなんて、と。 ダリは素直に驚いた様子を見せる。 そんな彼の反応に、ナマエはバツが悪そうに視線を泳がせた。

「…好きだってこと、バレるのが、怖かったんです」
「…それはどうして? って、聞いてもいいのかな?」

恐る恐る。 まさにそんな言葉がピッタリと当てはまる声色で、ナマエは小さく呟いた。

"好きだとバレるのが怖かった" 。 その言葉の真意が分からず、ダリは素直に彼女へと問いかける。 そんな彼の言葉を受けて、ナマエはまたおずおずと。 その口を開いた。

「…ダリ先生、すごく人気があるし。 私のことなんて眼中にないんだろうなって、そう考えたら、自然と冷たい態度を取ってしまって…」
「う〜ん、なるほどねぇ…」

しゅんと小さく縮こまりながら、ナマエは素直に自分の気持ちを告げる。 そんな彼女からの返答に、ダリは余裕たっぷり。 顎に手を当てながら、頷く様子を見せた。 が、しかし。

「( まさかその行動が "僕の気を引いてた" なんて。 本人は全く気がついてないんだろうなぁ… )」

彼は内心、喜びに満ち溢れていた。 何を隠そう。 彼は兼ねてから、自分に対して冷たい態度を向けてくるナマエのことを、ずっと気にかけていたのである。

ツンと澄ました態度の彼女を、どうにか振り向かせたい。
同性であるモモノキやスージーに見せる可愛らしい笑顔を、自分にも向けてほしい。

密かにそんな "欲" を抱いていたのだ。

「だけどこのままじゃダメだって気がついて… バレンタインぐらいは頑張ってみようって、そう思ったんです…」

"散々、生意気な態度を取っていたのに、今更何言ってんだって感じですよね… すみません…"

そう言って、ナマエはまたしても申し訳なさそうに顔を俯かせた。 確かに思い返してみても。 ダリの中のナマエのイメージは、いつでもどこか余所余所しいものだった。 けれど…

「ありがとう。 すごく、嬉しいよ」
「…ありがとう、ございます」

今のナマエの姿を目の前にして。 そんなイメージは、どこかへと飛んでいく。

照れくさそうに頬を染め、礼を言えば嬉しそうにはにかんでくれる。 それはまさに、恋する乙女そのもので。

そんな彼女の姿に、らしくもなく。 ダリの胸はきゅんと淡い音を立てた。

「ホワイトデー。 予定、空けといてね」
「えっ、?」
「とびきりのお返し。 用意するから」
「っ、ッ〜〜!!」

いつものふざけたダリからは想像もつかないほどの、柔らかな声。 穏やかな笑顔。

そんな彼の姿に、ほんのりと染まっていただけのナマエの頬は、瞬く間に真っ赤に色づいていく。

勇気を出してくれた、可愛い部下のため。 最高のお返しを用意しよう、と。 ダリは固く、心に決めるのだった。


BACK







- ナノ -