ずっと見てる / かんな様リクエスト



※このお話には、以下のような内容が含まれます。
・ストーカー行為
・若干の 狂愛 / ヤンデレ要素
苦手な方は、ご注意ください。 また、ハッピーエンドとは言えませんので、そちらもご注意ください。



「今日もお疲れ様、ナマエちゃん。 いつも遅くまでありがとう」
「いえいえ! あくましゅうどうし様こそ、いつも遅くまでお疲れ様です! 私なんかで良ければいつでもお手伝いしますから、どんどん頼ってくださいね?」
「ふふっ、ありがとう。 頼りにしてるよ」
「それでは、お先に失礼します!」
「気をつけてね」

私の言葉にペコリと頭を下げるのは、部下であるナマエちゃん。 顔を上げた瞬間に見えたのは、花が咲いたように可愛らしい満面の笑み。 その笑顔に、私の中に溜まった疲れも一瞬で吹き飛ぶ。 あぁ… この笑顔に私は何度救われたことか。

「おやすみなさい、あくましゅうどうし様!」
「おやすみ、ナマエちゃん」

教会を出る直後、こちらを振り返り元気良く挨拶をする彼女に私も笑顔で返事をする。 そんな私にニコリとはにかんで、彼女は教会を後にした。

「………さて」

ひとりになり、しんと静まりかえる教会に小さく呟いた私の声が反響する。 つい先程までナマエちゃんの可愛らしい声が響いていたのに… そう考ると、少し寂しい気持ちになってくる。 …おっと、感傷に浸っている暇はない。 早くしないと…!! そうして私は素早く身支度を整えると、そのまま扉へと向かいそっと顔を出して外の様子を窺う。 私の視線の先には、先程別れを告げたばかりのナマエちゃんの後ろ姿。

「( さぁ、今日もナマエちゃんを "見守らないと" )」

扉を出て、気づかれないように彼女の後を追う。 優しいナマエちゃんのことだから、私がこうして毎日後ろから見守っていることを知ったら、きっと遠慮してしまうに違いない。 だから決して気づかれないように、陰ながら彼女を見守ろうと心に決めているのだ。

「( ふふ、今日は機嫌がいいのかな? 足取りがいつもより軽いね、ナマエちゃん )」

後ろから見つめる彼女はいつもより少し、歩くスピードが速い。 いつもなら、この廊下まで辿り着くのにあと30秒はかかるはずだが…

「( もしかして、昨日のプリンが楽しみで早足になってるのかな? …本当に、甘いものが大好きなんだから。 まあ、そんなところも可愛いんだけど… )」

それは今朝のこと。 『昨日の夜、プリンを食べ損ねたんです…! 夜の楽しみに取っておいたんですけど…』 そう言って、いじけたように唇を尖らせていた彼女の姿を思い出すと、くすりと笑いが込み上げて来る。 昨夜の仕事帰りに食堂の怪鳥プリンを持ち帰っていたことは知っていたけれど、まさか食べ損ねていたなんて。 甘いものが大好きな彼女にしては非常に珍しいエピソードである。

「( それにしても、どうして食べ損ねてしまったんだろうか…? もしかして、姫が彼女の部屋に侵入したとか…? あぁ…! やっぱり心配だ…!! 姫だけならまだしも、どこの馬の骨とも分からない輩が彼女の部屋に侵入でもしたら… そう思うと夜も眠れない…!! )」

この件に関しては、以前からの心配の種だったりする。 姫だからまだ許容出来るものの、他の誰かが彼女の部屋に入っているだなんて、絶対に。 本当に、絶対に、許せない。 想像するだけで、グツグツとはらわたが煮えくりかえってくる。 …やはり彼女の身の安全のために、カメラと盗聴器を設置するべきだろうか。 うん、それがいいかもしれない。

「( おっと… 今は考え事をしている場合じゃなかった! 早くナマエちゃんを追わないと… )」

今後の方針を脳内でまとめている内に、ナマエちゃんが少し先の角を曲がろうとしているのが目に入り、慌てて思考を現実に引き戻す。 あれほど可愛らしいナマエちゃんなのだ。 魔王城内とはいえ、危険が迫る可能性は大いにあり得る。 私が彼女を守らなければ。 気を引き締めて、視界の先の曲がり角へと向かう。 様子を窺おうと、そっと顔を覗かせた私の瞳に映ったのは、

「お疲れ、ナマエ」
「おつかれさま、のろくん!」
「…は?」

のろいのおんがくか君と仲良く楽しそうに話すナマエちゃんの姿だった。 そのあまりに予想外の光景に、思わず口から声が漏れてしまう。 ナマエちゃんに聞かれてしまったかと少し焦ったが、視界の先に映る彼女は、彼と話すことに夢中でこちらには全く気づいていない様子だった。 気づかれなくて良かったはずなのに… 今はそれが、無性に腹立たしい。 …いや、待てよ? 彼女が帰り道にこんな風に男と長話をすることなんて今まで無かったじゃないか。 …これはすでに私の存在に気づいていて "わざと" 妬かせるような行動を取っているんじゃ…?

「( ふふ。 ナマエちゃんは本当に心配性だなぁ。 私はこんなにもナマエちゃんの身を案じていると言うのに。 だけどそんなところも、 )」
「はい、コレ」
「? なあに…?」

私がナマエちゃんからの可愛いイタズラに思考を巡らせていたその時。 のろいのおんがくか君がナマエちゃんに何かを手渡す仕草を見せる。 …紙袋? 一体、何を、

「昨日のお詫び。 ナマエのプリン、食べちゃったから貰ってきた」
「わぁ…!ありがとう〜!」
「( のろいのおんがくか君が、食べた…? ナマエちゃんが楽しみにしていた、プリンを…? )」

昨日も今日と同じように、ナマエちゃんを見守りながら部屋まで送り届けた。 そのあともしばらくの間、怪しい奴が彼女の部屋を訪れないか見張っていたのに。 …まさか。 ナマエちゃんが帰ってくる前から、彼女の部屋にはのろいのおんがくか君が…? そこまで考えた、その瞬間。 ぶわっと、熱い何かが身体中を駆け巡る感覚に襲われる。

「( 私以外の男を、部屋に招いていた…? 私が部屋の外で見守っていたあの時間も、目の前のふたりは… )」
「ねっ、のろくん。 私、早く食べたい! 早く部屋に戻ろ?」
「ほんとにさ… その食い意地、どうにかしたら?」
「だって、プリン大好きなんだもん!」
「っ、…まぁ、そんなとこも可愛いけど」
「っ、!」
「………」

そっと遠慮がちにナマエちゃんの手を取る、のろいのおんがくか君。 そんな彼に顔を赤くしながらも、嬉しそうにはにかむナマエちゃん。 その初々しいカップルのようなふたりの姿を目の当たりにして、私の全身から血の気がスッと引いていくのを感じる。 私のナマエちゃんに触れるな。 ナマエちゃんも。 どうしてそんなに簡単に手を握らせているんだ? 私は愛する君のために、沢山の時間をかけてきたのに …いや、待て。 ナマエちゃんは、私を "妬かせる" ためにこのような行動を取っているんじゃなかったか? そうだとすれば、これもその作戦のひとつなのでは? …そうに違いない。 そうでなければおかしいのだ。 今まで男の影などなかったはずなのに、突然このようなことになるわけがないのだから。 …しかし、これは由々しき事態だ。 まさか私の気づかぬ内に、こんな計画を立てているなんて。 いくら "演技" とはいえ、私以外の男にナマエちゃんの彼氏ヅラをされるのは気分の良いものではない。 …やはり、カメラと盗聴器の設置は必須事項だ。 早急に対応しなければ。

「( 安心してね、ナマエちゃん。 すぐに君を守るための準備を整えるから… )」

そう心に決意し、そのまま彼らの後を追う。 どうやら今日は、のろいのおんがくか君の部屋へ行くという設定のようだ。 ふたりが彼の部屋に消えて行ったところを見守ったところで、私はその場を後にする。 …今ならナマエちゃんに気づかれずに、カメラと盗聴器を仕掛けられそうだ。

「( これもナマエちゃんには、黙っておかなければ。 きっと私がこれほど彼女を心配していると知ったら、遠慮するに違いない。 私がしたくてやっていることだから、そんなこと気にする必要なんてないのに… ふふっ、やっぱり、ナマエちゃんは優しい子だなあ )」

ナマエちゃんのことを考えていると、自然と足取りは軽くなる。 あっという間に自室に辿り着いた私は、以前から用意しておいたカメラと盗聴器を持ち出して、ナマエちゃんの部屋へと一目散に向かった。

「( いくら私の気を引くためとはいえ… まさかナマエちゃんがここまでのことをするなんて )」

いつも側で見守っている私でさえ知らない、彼女の新たな一面を垣間見たような気がして嬉しくなる。 それほどまでに私のことを意識してくれているということが本当に嬉しくて… 鼻歌でも歌ってしまいそうだ。

「( ふふっ、これを仕掛けたら… もっと色々な一面が見られるんだろうなぁ )」

正直なところ、もっと前から仕掛けたかったというのが本音なのだが… 過保護過ぎるのもいかがなものかとカメラと盗聴器の設置は見送っていたのだ。

「( 過保護だ何だと言ってられない状況だしね。 …これで、これからは一日中。 24時間ずっと。 彼女を見守ることが出来る )」

そこまで考えたところで、緩みそうになる頬を引き締める。 ダメだダメだ。 彼女を守るためなのだから。 自分の私利私欲のためにやっているのではない。 そこを履き違えないようにしなければ。 そうして、気を引き締め歩くスピードを速めた私は、ついに彼女の部屋の前に辿り着く。

「( こんなこともあろうかと、合鍵を作っておいて良かった。 ふふっ、ナマエちゃんは恥ずかしがり屋だから、私に合鍵を渡すのを躊躇っているみたいだからね。 だけど、あまりに時間がかかっているから… つい自分で作ってしまったよ )」

照れ屋な彼女は、中々私を部屋へと誘ってくれず… だけどきっと、私に来て欲しいと思ってるに違いない。 本当に可愛いナマエちゃん。 そんな彼女の気持ちを汲んで、私は以前から、今日のように何度か彼女の部屋を訪れている。 鉢合わせると緊張してしまうだろうから、彼女のいない合間を見計らって。 ガチャリ。 鍵を開けて、扉を開く。 その瞬間、いつも彼女から漂っている香りが私の鼻の中へ飛び込んできて… そのあまりに心地良い香りに、私は深く息を吸い込んだ。

「( ああ、ナマエちゃんの香り… 良い匂い )」

匂いを嗅ぐのもそこそこに、私は部屋の中へと進んでいく。 家具の位置が以前とは少し変わっていて、悪いとは思いつつも、ついついジロジロと部屋の中を見回してしまった。

「( 模様替えしたのかな…? ソファやテーブルの位置も変わってる… こんなに重いものまで、ナマエちゃんひとりで…? )」

部屋の中のありとあらゆるものが場所を変えているのを目にして、私の胸はザワザワと音を鳴らし始めていた。 …ナマエちゃんと私だけの。 このとても大切な空間を。 荒らされている… そんな感覚が、じわじわと私を蝕んでいく。 そして、唯一。 場所を変えていないベッドへと辿り着く。 そこで、私の目に映ったのは、

「……白い、羽根」

ベッドの上に落ちている、数枚の白い羽根。 中には赤い羽根も混じっていた。 …白と、赤の、羽根。 それを見て、思い出すのは、ただひとり。

「のろいのおんがくか、君…?」

彼が、このベッドに…? なんのために? …そんなの決まってるだろう。 ナマエちゃんを、私の、ナマエちゃんを…

「あれっ? 鍵、開いてる…? どうして…」

呆然と立ちすくむ私の耳に届いたのは、愛しい愛しいナマエちゃんの声。 …しまった。 鍵をかけ忘れていた。 どこか冷静な頭で、そんなことを考える。

「のろくんに借りた本、どこにやったかな… 確かこっちの方に…っ、きゃあっ!? っ、て、えっ? あくま、しゅうどうし、さま…っ?」
「………」
「どっ、どうして、あくましゅうどうしさまが、ここに…」

ベッドの前で立ちすくむ私にナマエちゃんは、困惑と怯えを含んだ表情を向けている。 …どうして。 どうしてそんな表情をするの? 私はただ、君のことを…

「ナマエちゃん」
「っ、…?」
「君のこと、ずっと見てたんだよ」
「っ、な、にを、言って…」
「ずっと、見てた」
「ひっ、…」

私の気持ちが伝わるように。 ジッと見つめながら言葉を紡げば、更に怯えた様子を見せるナマエちゃん。 小さな悲鳴さえ漏らすその態度に、私の中の理性はパキッと音を立てて崩れ去る。 いや、理性など。 君を愛してしまった時点で… とっくに無くなっていたのかもしれない。

「なのに。 君は、のろいのおんがくか君と、」
「やっ…! こっ、来ないで…っ!!」
「どうして? 私は、君だけを、ずっと、」
「やぁ…っ!」

近づく私から距離を取ろうと後退る彼女に、どくんと胸が締め付けられる。 もうこれ以上、離れてほしくない。 そんな気持ちが溢れて、咄嗟に彼女の細い腕をガシッと掴んだ。

「や、めて…っ、おねがいっ、」
「っ、あぁ… 涙目になって、私を誘っているのかい? 本当に君は、可愛いなぁ…」
「っ、! やだっ、やだ…っ! のろくんっ、たすけ、んんっ!」

涙目になって懇願する表情に、思わずドキッと胸が高鳴る。 こんなものを前にして我慢など出来るわけがない。 堪らなくなった私はゆっくりと顔を近づけるが、彼女の口から発せられたのは、またしても。 私とは違う、男の名前で。

「んっ… んむっ、はあっ… ダメじゃないか、私といるのに他の男の名前を呼んじゃ…、んっ」
「んんっ、んう…っ、もっ、やめ、て…っ! どうしてっ、こんなこと…っ」
「どうしてって? そんなの、決まってるじゃないか」

君のことが、好きだからだよ

そう言った私を見てナマエちゃんは、その大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙を流す。 嬉し涙だろうか? 初めはそう思ったけれど、絶望や怯えの色を滲ませるその表情を目の当たりにした、その瞬間。 ギュッと胸を締め付けられる感覚。 それと共に、えも言われる快感が、ゾクゾクと身体中を駆け巡った。

「( あぁ… ナマエちゃん。 君は本当に… )」

『 最高だよ 』
彼女の耳元で、そっと囁く。 ビクッと震える姿を見て、またしても私は、快感に身を震わせた。


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