dazzling smile / ovo様リクエスト



「本日から悪魔教会に配属となりました、ナマエです! よろしくお願いします…!」

荘厳な雰囲気にはあまり似つかわしくない、元気いっぱいな声が悪魔教会に響き渡る。 祭壇の前に立つ私の隣で、ニコニコ笑顔で自己紹介の挨拶をしているのは、女魔物のナマエちゃん。 今年の春から魔王城に勤め始めた、新人魔物だ。

「悪魔教会にこんな可愛い女の子が来るなんて、初めてじゃね?」
「そ、そうですよね…! なんだか緊張するなぁ…!」

突然の可愛い新人の登場に、色めき立つ教会内。 フランケンゾンビやきゅうけつきくんの声が聞こえてきた瞬間、私の体は思わずギクッと震えてしまった。

「( 本当に… どうしてこんなに若くて可愛らしい子が悪魔教会ここに… )」

チラリと気づかれないように隣の彼女に視線を向ける。 ざわざわと騒がしくなる魔物たちを少し緊張した面持ちで見つめる彼女は、冗談抜きで… 本当にとても可愛らしい女の子だった。 こんなに可憐なこの子なら、もっと華のある女部隊にでも所属出来ただろうに… そこまで考えたところで、私は数日前に行われた十傑会議での出来事を思い返す。 あの時に聞かされた話が事実なら… 私はそわそわと落ち着かない気持ちのまま、またしてもチラリとナマエちゃんに視線を向けた。




数日前。 新人の配属先の発表のため、各エリアボスを集めた十傑会議が開かれた。 今年の新人の数はそこまで多くはなく、各エリアに1人もしくは2人程度の人数ということもあって、研修や育成にも力を入れていけるだろうと前々から皆で話していたのだが…

「いっ、今、なんと…?」
「えっ? いや、だから… 悪魔教会エリアには 『ナマエ』 を配属すると…」
「っ、!」

魔王様の口から出た言葉が信じられず、もう一度聞き直してみたが、どうやら私の聞き間違いではなかったようで… だらだらと汗が額から溢れてくるのを感じる。

「ど、どうして、彼女が私のところに…!」
「どうしてと言われても… 彼女が悪魔教会エリアを希望しているのだが…」
「っ、かっ、彼女が悪魔教会を…!?」

まさかの理由に思わずどもってしまう。 先程から話題に上がっている『ナマエちゃん』 とは、今年の新人の中で唯一の女性魔物。 そんな紅一点の彼女が一体何故、悪魔教会を希望しているのか… 全く見当もつかなくて、私の焦りはどんどんと膨れ上がっていく。

「かっ、彼女なら、もっと華やかな女部隊にでも入れるでしょうっ? どうしてわざわざ悪魔教会のような陰鬱な場所を…!」
「いや、それが責任者のセリフか!? 自虐ネタが過ぎるぞ…!」
「つーかよ… どうしてそんなにナマエのこと気にしてんだよ?」
「えっ!? あっ、いや… それは…っ!!」

しまった…! と自分の失態に気づくが、時すでに遅し。 皆、ジーッと怪しむような視線をこちらに向けている。

「べっ、別に、特に理由は…」
「あくましゅうどうし?」
「っ、ッ!!」

ニコリ、と笑みを浮かべる魔王様。 普段は頼りないはずなのに、有無を言わせないような雰囲気を醸し出す彼に思わず気圧される。 魔王様だけならまだしも、後ろには十傑衆の面々が同じように真っ黒な笑みを浮かべて待ち構えていて、そのあまりの迫力に私はゴクリと唾を飲み込んだ。

「……わ、笑わないで、くださいよ?」
「もちろんだ!!」

魔王様の力強い言葉に、他の皆もウンウンと頷く。 何だか信用ならないが… ここまで来れば、言い逃れは出来そうにない。 そう判断した私はついに折れる。 そしてゆっくりと、重い口を開いた。

「…………………… あ、あんなに若くて、かっ、可愛らしい子… どう接すれば良いか、分からないじゃないですかっ」
「「「「……………」」」」

シーンと静まり返る会議室。 あまりの静けさに、何だか恥ずかしくなってくる。 何も言わない彼らに痺れを切らした私が俯いていた顔をパッとあげると視界に入ったのは… 皆が揃いも揃って、口をぽかんと開けているところだった。

「…なっ、何か、言ってくださいよ…!!」
「……えっ、あっ、いや… えっ? あ、あくましゅうどうし、お前…」
「っ、なっ、何ですか! 言いたい事があるなら、言ってください…!」
「ジジイ… お前…っ、マジ?」
「本当に、マジ… なんですの?」
「っ〜〜!!! 大真面目だよっ!! 悪いかい!? 私みたいな年寄りが、あのような年頃の可愛い女の子相手に…っ 一体何を話せば…!!」

魔王様とポセイドンくんとアルラウネ。 信じられないものでも見たかのような3人の反応に、私の羞恥心は爆発してしまう。 思わず、本音を勢いに任せてぶつけてしまったあとで 『やってしまった…!』 と気づくが…

「ぷっ…!」
「っ、ふっ、ブフッっ…!」
「ぎゃははははは!!」
「あんらぁ…! ふふっ、可愛いところもあるじゃない♪」
「ふっ、ふふっ… ふっ、」
「っッーーー! わっ、笑わないでって言いましたよね!?」

巻き上がる笑いの嵐。 ポセイドンくんに至っては、涙まで流して爆笑している始末。 …私の気も知らないでっ!! こうなるのが分かってるから、言いたくなかったんだ…っ!!!

「いやっ、笑うなって… そんなの、無理っ…! ブハッ…!」
「まさかあなたが、そこまでっ、うぶとは思いませんでしたわ…!! ふふっ、ふっ」
「ちょっとぉ! みんな笑いすぎよぉ〜? ふっ、ふふっ!」
「そっ、そうだぞ! っ、ブフッ、あくましゅうどうしは、真剣にっ、ッ、悩んでいるんだからな! っ、ぶはっ」
「そんな状態で言われても、全く説得力ありませんよッ!!!!」

何もそんなに笑わなくても…! いまだゲラゲラと笑っている皆を見ていると、段々と腹が立ってくる。 魔王様の笑いながらのフォローには、思わずバンッと机を叩きながら立ち上がってしまうけれど、いまだ彼らの笑いはおさまりそうにない。 …本当にどれだけ笑えば気が済むんだ…っ!

「あー… 腹いてぇ…」
「そりゃあ、それだけ笑えば腹も痛くなるだろうね!!」
「いやぁ、すまんすまん! まぁ、そう怒るな、あくましゅうどうし!」
「…さっきまでゲラゲラ笑ってた人のセリフですか!!」

ようやく笑いの波がおさまった頃、腹が痛いと呟くポセイドンくん。 そんな彼に私は怒りをぶつけるように、嫌味を吐いてやる。 怒る私を宥める魔王様の軽い謝罪にも苛立ちは膨れ上がり、思わず悪態をつくけれど… 魔王様はキリッと表情を真面目なものに変え、私を見つめて…

「で、どうする…? もし本当にお前がナマエとの接触を避けたいのなら、別エリアへの配属も考えるが…」
「っ、うっ…!!」

先程まで馬鹿みたいに笑っていた表情とは違う、部下のことを真剣に考えている魔王としての表情。 そんな表情を見せられて、自分のわがままを押し通すことなど出来るはずもなく…

「…本当に彼女本人が 『悪魔教会エリア』 を希望したんですね?」
「あぁ! それは我輩が保証する! 絶対に、間違いはない。 事前のヒアリングで、ナマエ本人がそう答えている」
「…それも意味わかんねーけどな」
「本当に、どうして…」

『その理由については、我輩も聞いていないのだ』 そう言って魔王様はもう一度、私へ視線を向ける。 最終確認だ、とでも言うようにジッとこちらを見つめる彼に、私はゆっくりと… 首を縦に振ることしか出来なかった。




「あ、あの…」
「へっ?」
「…わ、私の顔に、何かついてますか…っ?」
「えっ? ………わぁあああ!! ご、ごめんっ!」

鈴のような可愛らしい声に、意識を現在へと戻される。 私の視線の先には、眉を八の字にして苦笑いをするナマエちゃん。 誰が見てもに困惑していると分かる彼女の表情にハッとして、私は思わず大声を上げてしまう。 そしてすぐさま謝罪の言葉を口にした。

「あっ、いえっ、その…っ ずっと、私の顔を、見ていらっしゃったので…っ」
「ご、ごめんね…っ! ちょっと、考え事をしてて、それで…っ!」
「そ、そんなっ、謝らないでください…! 私の方こそ、すみません…! 変なことを聞いちゃって…」

お互いに頭をペコペコと下げ合う私たち。 彼女には一切非が無いのに、気を遣わせてしまっているのが丸わかりで、とんでもない罪悪感に苛まれる。 初めての出勤に、初めての挨拶… きっとものすごく緊張しているに違いないのに…! このような大事な場面で、責任者である私が一体何をやっているのか… !

「こ、こんな時なのにっ、私がこんな体たらくで…っ! 本当にっ! 本当にごめんねっ、ナマエちゃ」
「ふっ… ふふっ!」
「…ぁっ、えっ…?」
「…ごめんなさいっ、何だか可笑しくてっ! わたしたち、謝ってばかりですね?」
「っ、ッーーー!!!」

笑いをこらえるように、控えめにクスクスと笑うナマエちゃん。 花が咲いたように笑うその姿に、ピシャァアン!と稲妻のような衝撃が私の中を駆け巡る。

「( いっ、いい、今の、笑顔は…っ )」
「あくましゅうどうしさま…?」
「っ、うぐぅ…っ!?!?」

黙ったままの私を不思議そうに見上げるナマエちゃんを視界に入れた途端、胸がギュッと締まるような感覚に襲われる。 私の目に映る彼女は、まるで宝石のようにキラキラと輝いて見えて… 私の胸はドキドキとうるさいほどに鼓動を刻んでいた。

「ふふっ! やっぱり悪魔教会ここを希望して良かった…」
「へっ…!?」
「実は、あくましゅうどうしさまがエリアボスだって聞いて、ここで働きたいって魔王様にお願いしたんです!」
「っ、ど、どどどうして…っ」

魔王様から聞いていた通り、やはり彼女は悪魔教会で働きたいと志願していた様子である。 しかも、私が関係しているような口ぶりに、動揺を隠せない。 一体何が彼女にそうさせたのか… 理由を知りたくて仕方ない私は、焦ってどもりながらも彼女へ問い掛けた。

「魔王城に就職する前にあくましゅうどうしさまを見かけた時からずっと、すっごく優しくて頼りになりそうで… こんな素敵な上司の元で働けたらきっと楽しいだろうなぁ… って、私の夢だったんです!」
「っッ〜〜!?!? ( むっ、無理…!!! これっ、し、死ぬ…っ!!! ドキドキしすぎてっ、死ぬやつ…っ!!! )」
「えっ? き、きゃあっ…!! あ、あくましゅうどうしさまっ!?」
「大変だーーーッ!!! あくましゅうどうしさまが気絶したぞっ!!!」
「きっとあまりの衝撃に身体がついてこれなかったんだ…!!」

それからの記憶は一切無い。 ちなみにこれは余談だが… 倒れた私をつきっきりで看病してくれたのもナマエちゃんだったそうな。 後からその事を聞かされて、またしても気絶寸前となった… というのはまた別のお話。


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