いっぱい食べる君が好き / momo様リクエスト



「イルマくんってさ、」
「ふぁいっ?」
「彼女っているの?」
「へ!? ッ、んぐ…っ、んん…っ!」

バビルス校内、食堂にて。 口いっぱいに料理を頬張る入間に対し、投げかけられたのは思いもよらない言葉。 その突然の出来事に、彼はウッと喉を詰まらせる。

「あはは、すっごく驚いてる。 …さては、図星だなぁ?」

慌てて水の入ったコップを手に取る入間の姿を見て、呑気に笑い声を上げるのは、ミョウジ・ナマエ。 彼女も入間と同じくバビルスに通う、女子生徒。 学年は入間のひとつ上の、先輩だ。

「っ、笑い事じゃないですよ、ナマエ先輩…っ!」
「ごめんごめん。 謝るから、そんなに怒らないで?」
「っ、ッ−−!!」

こてんと首を傾げながら、上目遣い。 そんなナマエの可愛らしい仕草に、またもや危うく喉を詰まらせそうになる入間。 しかしさすがは "圧倒的危機回避能力" を持つ男。 同じ過ちは繰り返さないと、何とかこれを回避… したのは良いのだが…

「ふふっ、顔が真っ赤。 …ほんと可愛いなぁ、入間くんは」
「も、もう…! からかわないでください…!」

真っ赤に染まる顔までは、隠せなかったようで。 そんな初々しい反応を見せる入間が、可愛くて可愛くて仕方がないナマエ。 真っ赤に染まる頬をツンとつつけば、これまたぷしゅ〜っと湯気が出そうなほど首まで赤くさせる彼に、ナマエは大満足のご満悦だ。

誰の目から見ても、仲の良い先輩と後輩であるナマエと入間。 同じ学年でも無ければ、同じ師団バトラでも無い。 そんな何の接点もない彼らが、何故こんなにも仲睦まじく食事を共にしているのか。

その理由ワケは、至極単純。 大きな口を開けて、口いっぱいにごはんを頬張り、たくさんおかわりをする入間を初めて見たその瞬間、ナマエは胸を鷲掴まれて、一目惚れ。

そんな彼女が入間に声を掛けたことにより、ふたりは晴れて "お知り合い" に。 それから食堂で彼を見かける度に声をかけ、彼らの関係は無事、"オトモダチ" にまで発展していたのだ。

「でもナマエ先輩、どうして突然こんな話を…?」
「だって最近のイルマくん、すっごくキラキラしてるし… さては恋でもしてるなって、そう思ったんだけど…」
「こっ、ここ、恋…っ、ですか…っ!?」

"恋" 。 その言葉に、過剰に反応する入間。 たかが恋バナひとつにここまで反応してしまう彼が微笑ましくて、ナマエの胸はほっこりと温かくなる。 しかし、のほほんとしている暇はない。 今日、ナマエがこの話題を出したのにはきちんとした理由があるのだ。

入間曰く、自分たちは "オトモダチ" の関係なのだと言う。 しかしナマエが望むのは、恋人。 "オトモダチ" よりも先の関係である。 今のままでは、クララやアスモデウスたちと何ら変わりはない。

噂ではあの生徒会長までもが、入間のことを狙っていると聞く。 このままでは先を越されてしまうと、奮い立ったナマエ。 まず手始めに入間の反応を見てみようと、"彼女" や "恋" というワードを "あえて" 口にしていたのである。

「それでそれで? 彼女は? いるの?」
「いっ、いるわけないじゃないですか…っ! 僕なんて、アズくんみたいにカッコよくもなければ、強くもないし、それに…」

"人間、だし…" そんな消え入るように小さな呟きは、幸か不幸か、ナマエの耳には届かなかった。 自信なさげに言葉尻が小さくなる入間。 そんな彼を何故か、ナマエはきょとんと不思議そうな顔で見つめている。

「えっ? そうかなぁ? イルマくんはすっごくかっこいいし、位階ランク5へーだし、充分強いと思うけど…」
「っ、そんなことは…っ!」

それは世辞でも何でもなく、ナマエの心からの言葉だった。 実際、入間はこちらが焦りを覚えてしまうほどにモテている。 本人が気づいていないだけで、たくさんの者たちが彼の持つ強さや優しさに惹かれているのだ。

「誰よりも優しくて思いやりのある子だもん。 女の子にモテてもぜーんぜん、おかしくないよ?」
「っ、ッ−−−!!!」

もちろん、ナマエもその内のひとり。 今はまだ、彼の特別にはなれていないけれど… そうなりたいと、強い野望を持っている。

そんな彼女の強い気持ちが、言葉となって溢れ出す。

"誰よりも優しくて思いやりのある、男の子"

入間をそう表現したナマエの表情は、まさに恋する乙女そのもので。 そのあまりに可愛らしい表情に、入間の胸はドキッと大きく鼓動を刻む。

彼の中に、新たに芽生えた感情。 自分の心の変化に、入間は戸惑いを隠せない。 だけど不思議とそれは不快ではなくて… この感情に名前をつけるならば、それは…

「( もしかして… これが、恋… )」
「ねぇ、イルマくん」
「っ、は、はい…っ!」
「私がイルマくんの彼女に、立候補してもいい?」
「…………へっ?」

たった今、自分の中に芽生えた感情を認識したばかりの入間。 そこへ来て、ナマエのこの発言。 当然の如く、彼の頭は真っ白に。 しかしそんな入間の変化に気づいているのかいないのか… ナマエはお構いなしに、そのまま話を続ける。

「実は私ね… 最初からイルマくんのこと、狙ってたの」
「っ、ねっ、ねら…ッ!?!?」

まさかの事実発覚に、入間は驚きの声をあげる。 さすがの彼もここまでハッキリと言われてしまえば、反応せざるを得なかった。 それは明らかなナマエからの "好意" 。 もちろん "恋愛的な意味" でのモノである。

突然のナマエからのカミングアウトに、入間の頭は大混乱。 恋愛初心者の入間には、とてもじゃないが荷が重すぎる。 それでも何か答えなくてはと必死で頭を働かせるが、気の利いた言葉など出て来やしない。

そんな慌てふためく入間に対し、あくまで冷静な様子を見せるナマエ。 …ここまで来たら、もう後には戻れない。 そんな強い覚悟を持った彼女に、もはや敵はいなかった。

自分の気持ちを全て曝け出す。 その一心でまた、ナマエはその口を開く。

「ずっと前から "イルマくんの彼女になりたい" って下心しかないんだけど…」
「ッ、なっ…!」
「そんなはしたない子は、嫌い…?」
「っ、ッ〜〜!!!!」

ナマエの言葉、表情、仕草… 入間はその全てから、目が離せない。 そして最後の最後… こてんと首を傾げながら告げられた言葉は、入間の心臓にとんでもない衝撃を与える。 まさにそれは、決定打。 完全に恋に落ちてしまったと、入間はこれでもかと実感する。

「きらいじゃ、ない… です…!」

言葉を詰まらせながらも、自分の気持ちを正直に伝える入間。 これが、今の彼の精一杯。 ナマエから次々と与えられる刺激の強い言葉に、彼の胸はもう、いっぱいいっぱいだった。 しかし、ナマエの猛攻は止まることを知らず…

「それは…… 好きって、こと?」

耳元で囁かれる、甘い声。 目の前に並べられた料理とは全く違う、女性特有の甘い香りが入間の鼻腔をくすぐった。 そのあまりにも強い刺激に、入間の心臓はどっくんどっくんと激しく音を刻む。

「っ、そっ、それは−−−」
「イルマ様ッ!!!」
「イルマちーーーっ!!!」

あと、たったひと言。 入間が何かを口にしていれば、きっと何かが変わっていたはずなのだが… イルマ軍が揃ったところで、ふたりを包んでいた甘い雰囲気は、一瞬で崩れ去る。

「ふふっ、今日はここまでだね。 …また明日、返事を聞かせてくれる?」
「っ、はい…っ!」

恋愛は引き際も大事。 ナマエはそれを、自然と理解していた。 焦らすように先延ばしにすることで、入間の頭の中を自分でいっぱいにしてやろうと、考えたのである。

そしてそれは、見事に成功。 手を振り去って行くナマエを、見つめる入間の瞳は、それはそれは熱を孕んだ男の目をしていたそうな。



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