第27話「配達はお任せを!」のスキ魔



「わざわざごめんね、アザゼルさん… 本当にありがとう…!」
「いえ、これも生徒会長である私の務め。 それに私のクラスは自習時間ですので! 職員室までの案内はお任せください!」

そう言って眩しいほどの笑顔を見せるのは、悪魔学校バビルス生徒会長である、アザゼル・アメリ。 そんな彼女の頼もしい姿に、隣を歩くナマエもつられて笑顔を浮かべる。

急遽自習となった今の時間。 生徒会として校内の見回りをしていたという、アメリ。 途方に暮れていたナマエに対し、快く職員室までの案内を申し出てくれたのだ。

「でも、本当にアザゼルさんが来てくれて助かったよ…! どうやって中に入ろうかと途方に暮れてたから…」
「バビルスの警備体制は万全ですからね… 偶然とはいえ、校内の見回りをしていて、本当に良かったです」
「ふふっ。 こう言ったらなんだけど… 自習にしてくれた先生にも、感謝しなくちゃね?」

校門前で衝撃の出会いを果たしたふたりだったが、職員室へと向かう道すがら。 それはそれは随分と、仲が深まったようで。

すっかり畏まった様子が解け、おどけたように笑顔を見せるナマエ。 そんな彼女のほんわかとした雰囲気に、アメリはつい癒される。 これだけ可愛らしい女性なのだ。 あの掴みどころのないダリが、惚れてしまうのも頷ける。

「ダリ先生とは、いつ頃ご結婚されたんですか?」
「…えっ?」

その問い掛けはほぼ無意識に、アメリの口から溢れていた。 わざわざ弁当を届けるほどの、間柄。 まさかダリが既婚者であるとは思わなかったが、ふたりはきっと夫婦であるに違いない。 アメリはそう考えていた。 しかし…

ナマエの反応は、思っていたものとは程遠く、ポカンと口を開け、間抜けな表情で呆気に取られている。 まるでそのような質問をされるとは思ってもみなかったと、彼女の表情が物語っていた。

「ナマエさんは、その… ダリ先生の、"奥様" なんですよね…?」
「っ、おっ、おお、奥様ぁ…っ!?」
「ッ、!?」

"奥様" 。 その言葉に過剰な反応を見せるナマエ。 彼女のあまりの驚きっぷりに、質問したアメリ自身もつられてビクッと驚きに体を震わせる。

まさかアメリがそのような勘違いをしているとは、露ほども想像していなかったナマエは、訂正しようと慌てて口を開いた。

「アザゼルさんっ、違うの…! ダリ先生とは、その…っ、お、お付き合いしてるだけでっ、結婚してるわけじゃ…っ」
「えっ!?!? そうなんですかっ!? …すっ、すみません、早とちりを…っ」
「で、でも、そうだよね…っ、お弁当を届けにきたなんて言ったら普通、そう思っちゃうよね…」

『も、ももっ、もちろん…っ、そうなれたらいいなとは、思ってるけど… って、わたし、何言ってんだろ…っ』

どもりながらも早口で喋ってしまうのは、おそらく照れ隠しなのだろう。 頬を真っ赤に染めながら、要らぬ事まで話してしまうナマエの姿を見て、場違いながらも、アメリは心の中でしみじみと呟く。

「( 本当に、すごく… 愛らしいひとだな… )」
「アザゼルさん…っ! 今のは聞かなかったことにしてもらえると…」
「それは… 難しいお願いですね?」
「っ、! あ、アザゼルさぁん…っ」

庇護欲を掻き立てるナマエの言動を前にして、少しからかってやりたい気持ちが芽生える、アメリ。 意地悪な言葉を投げ掛ければ、彼女は何とも情けない声で泣きついてきて。

そんな彼女の姿に、アメリはふふっと柔らかな笑みを浮かべるのだった。



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