「…行っちゃいましたね」
席を立ったダリとスージーの背を見つめながら、イチョウはポツリと呟く。 先程までの騒がしい雰囲気から一変。 彼の周りには静けさが訪れた。
「こ〜んなに良い女が目の前にいるっていうのに… 自信無くしちゃうわぁ」
イチョウに続き、ライムも。 ナマエの元へと向かうダリたちを見つめながら不満そうに文句を垂れる。 そのいじけるような口ぶりに、イチョウは少し笑いをこぼしながらも、しっかりと彼女をフォローすることを忘れない。
「そんなご謙遜を。 ライム先生はいつでも魅力的で素敵な女性ですよ」
「ふふっ、イチョウ先生ってば。 褒めても何も出ないわよ〜?」
イチョウの紳士的な回答に、ライムはついつい顔を綻ばせる。 このように褒められて、嬉しくないわけがない。 機嫌良くグラスを傾ける彼女を見て、イチョウはホッと胸を撫で下ろした。
そんなふたりの視線は、またもやダリたちが向かったナマエのテーブルへと向けられる。 ダリとスージーが隣同士で腰をおろす様子を見て、イチョウは思わず口を開いた。
「ナマエさん… 傷つかないといいですけど…」
「彼、あれだけ怒ってるんだもの。 それは無理なお話じゃないかしら〜?」
「……ですよね」
イチョウのささやかな願いは、ライムによって一刀両断。 ズバッと言い切った彼女に、イチョウはあからさまに肩を落とす。 そんな彼を見て、ライムは思った。
"この男もか…" と。
「…ほんと、男って馬鹿な生き物よねぇ。 恋人がモテるだなんて、嬉しい悲鳴じゃない?」
「そう上手くは割り切れないんですよ。 …男は、馬鹿ですから」
そう言って、苦笑いを浮かべるイチョウ。 彼はジョッキの持ち手を握ると、そのままゴクゴクとビールをあおった。 ヤケ酒とまではいかないが、その思い切りの良い飲みっぷりに、ライムは内心呆れつつ。 彼女もまた、自身のグラスを口元へと運ぶ。
「( これは早急に… 女子会を開かなくちゃね… )」
周りの男をどんどん虜にしてしまう、ナマエ。 そんな彼女に、サキュバスであるライムもまた、興味津々なご様子。
女子会が開かれる日も、そう遠くはなさそうだ。