第19話「あま〜い飴と、あま〜い鞭?」のスキ魔



つい先程まで調理実習を行っていた、ナマエと問題児アブノーマルクラスの生徒たち。 出来上がった料理をペロリと平らげ、最後の後片付けも終えた彼らに食後のデザートを楽しんでもらおうとナマエが立ち上がった、その時だった。

「ナマエさん…!」

名前を呼ばれたナマエは、すぐにその場で振り返る。 そこに立っていたのは…

「ケロリちゃん? それに、クララちゃんと、エリザちゃんも… どうかした?」
「あの… その…」
「?」
「私たちと、少しお話しませんか…っ!?」
「えっ?」

少し照れ臭そうに顔を赤くしながら、誘い文句を告げるケロリ。 まさか彼女たちから声を掛けてくれるとは思ってもみなかったナマエは、間抜けにも口をぽかんと開けて呆気に取られる。 しかし、それも一瞬のこと。 胸の中に溢れてくるのは、嬉しくて嬉しくて堪らない気持ち。

「もちろんっ! 待ってて、すぐにデザートを準備するから…」
「えっへへ〜ッ! デザートはナマエちと一緒に食べたいなって、ケロリんと姐さんと話してたのッ!!」
「うふふっ、レッツ女子会ね?」

ナマエの腰にギュッと抱きつき、嬉しそうに笑うクララ。 楽しそうに微笑みながら、ナマエに腕を絡ませるエリザベッタ。 ケロリも反対側のナマエの手をギュッと握りしめる。 そんな可愛らしい彼女たちに囲まれて、嬉しくないわけがない。 何だか妹が出来たような、そんなほっこりとした気持ちがナマエの胸をいっぱいにする。

「ふふっ。 それじゃあ… とびっきり可愛く盛り付けなきゃね?」
「デビかわのデザートッ!? 私も盛り付け手伝うッ!!!!」
「テンション上がっちゃうわね〜! デザートはなにかしら〜? すっごく楽しみ!」
「…食べすぎちゃったけど、今日は特別ですっ」

そう言って、デザートの準備に向かう女子4人。 キャッキャっと楽しそうにはしゃぐ彼女たちを、それはそれは羨ましそうに見つめるのは、ふたりの男子生徒。

「あそこだけマイナスイオンがすごくないっ!?」
「聖域と化していますな…ッ!!」
「…全く、懲りん奴らだな」

そんなふたりの熱烈な視線に、デザートの準備に夢中な彼女たちが気づくはずもなく。 相変わらずなふたりの態度に、呆れるカルエゴ。 そんな彼の呟きに、ダリを含めた問題児アブノーマルたちの面々が首を縦に振り頷くのだった。




「もう実習は終わったので… 質問しても、いいんですよね?」
「質問…?」

可愛く盛り付けをして、ス魔ホでの撮影会を終えたあと… ナマエお手製のレアチーズケーキに舌鼓を打ちながら談笑をしていた、女子4人たち。 世間話もそこそこに、ケロリがついに本題を切り出した。 そしてこのチャンスを逃すまいと、エリザベッタも便乗し、身を乗り出す勢いで話に参加する。

「そうそう! 私もナマエさんには色々お話を聞いてみたいと思ってたの! …そうねぇ、まずは "おふたりの馴れ初め" とか、どうかしら?」
「お、おふたりって、まさか…」
「やだぁ! ナマエさんとダリ先生のことに決まってるじゃなぁい!」
「そ、そうだよねぇ…」

エリザベッタが話し始めたあたりから、何やら嫌な予感を感じていたナマエ。 淡い期待を込めて、"おふたり" の意味を再確認するけれど、返ってきたのは自分の想像通りの言葉で… ナマエはがっくりと内心肩を落とす。

「馴れ初め… ってなに!?」
「ナマエさんとダリ先生が、どうやってお付き合いを始めたのか、ということよ
「! わぁあ!! 面白そう!! 聞きたい聞きたいッ!」
「私も…! 興味ありますッ!」
「うっ、う〜ん… そう言われてもなぁ…」

さて、どう答えたものか… と、ナマエはうーんと頭を悩ませる。 ナマエの立場からすれば、正直に話すことに何ら問題はない。 しかしそんな自分とは違い、ダリは彼女たちの "教師" である。

教師と生徒としてこれからも関わりを持つ以上、あまりリアルで生々しい話をするわけにもいかないなと、ナマエは言葉を慎重に選ぶことにした。

期待で瞳をキラキラと輝かせる彼女たちには悪いけれど、少し表現を柔らかくして、オブラートに包みながら… ナマエはそんなことを考えながら、自分たちの出会いについて記憶を辿っていく。 しかし、彼女たちがそんな生易しいことを許すはずもない。

「さぁ、ナマエさん…! 嘘偽りのない、リアルな話…! 根掘り葉掘り、話してもらいますからね…ッ!」
「うふふっ。 素敵な年上男性と出会った時の為に、今後の参考にさせてくださる?」
「馴〜れ初めッ! 馴〜れ初めッ!」
「……あ、あはは」

すでにナマエに逃げ場は無かった。 ものすごい圧で、ナマエに詰め寄る3人。 …ひとりは若干ズレている気もするが。

そうして、恋バナを前にしたうら若き女子たちの恐ろしさを、ナマエは改めて痛感するのだった。




一方その頃。 男性陣はというと…

「ダリ先生…」
「ん〜? 何だい、リードくん?」
「…どうして姐さんたちは止めないんですかっ!!」

こちらもナマエお手製のレアチーズケーキに舌鼓を打ちつつも… 彼女に質問責めをする女子たちを野放しにするダリに、不満をぶつけていた。

「あんなに楽しそうなガールズトークに割って入るような野暮な真似、僕には絶対出来ないなぁ〜!」
「うっ… そ、それは、そうですけど…!」

すでに調理実習は終了済み。 今はお互いプライベートな時間と言っても過言ではない。 休日の食後のティータイム。 彼女たちはその時間を楽しんでいるに過ぎないと、ダリはあっけらかんとリードに言葉を返した。 しかし、リードは腑に落ちない様子。 未だ歯向かう姿勢を見せるリードに、ダリはトドメを刺そうと、再度その口を開いた。

「というか、そもそもの話… ナマエさんが一生懸命計画を立ててくれた調理実習の時間に、 "ずけずけとデリカシーのない質問をする誰かさん" とは違って、彼女たちは自由時間に、 "僕とナマエさんのことについて" 質問をしてるんだよ? 怒る理由なんてひとつもないよね?」
「めちゃくちゃ丁寧に説明するじゃん…ッ!!」
「しかも、何も言い返せないド正論なのが本気で腹立つ…!」
「っていうか… ここまでムキになるなんて、いつものダリ先生らしくないような…」

それはそれは懇切丁寧に。 リードとケロリたちの違いを説明するダリ。 そんなダリの態度が普段の彼の様子と一致しないからか、リードたちは困惑の表情を見せる。 確かにジャズの言う通り、いつもの彼らしくないというのも一理ある。

「いつもの僕らしくないって言われてもなぁ〜 君たちは僕のこと、 "どんな男" だと思っているんだい?」
「なんかとりあえずノリの良い先生!」
「いつも言うことぺらぺら軽いっスよね」
「スージー先生といっつもわちゃわちゃ仲良くしてません? 浮気だ浮気。 おーいナマエさん、ダリ先生浮気してますよー っ、あたっ」
「ビックリするくらい信用ないなぁ、僕。 …もしかして、僕の悪い噂でも流してます? カルエゴ先生?」
「そういうことは、普段の行いを顧みてから言ってください」
「あはは! 相変わらず手厳しい!」

言いたい放題言いまくる、問題児アブノーマルたち。 彼らに遠慮という考えは、皆無。 ダリを敬おうという気が全く感じられず、流れるようにカルエゴに話を振るも、彼は相変わらずの塩対応。 これにはダリも、思わずあははと笑い声を上げた。

「ナマエさんのこととなると、大人げなくなるんだね。 ダリ先生って…」
「そりゃあ、ねぇ? 僕も教師である前にただの男だし。 恋人が "そういう目" で見られていたら… ヤキモチのひとつやふたつ、焼いてしまうのも仕方がないだろう?」
「ひとつやふたつどころじゃ、済まなさそうですけどね…」
「いや〜 ほんとにね! さすがはジャズくん! よく分かってる! まぁ、そういうわけだからさ…」
「「「「「…っ、!」」」」」

そこで今までの和やかな雰囲気は、ガラリと姿を変える。 そのあまりの大きな変化に、カルエゴ以外の男性陣は思わずその場で固まった。

「みんな、これ以上… 僕を怒らせないようにね?」
「「「「「……はい」」」」」

ニッコリ笑顔で告げる、ダリ。 その笑みはいつもの彼と何ら変わりはないはずなのに、彼らは素直に返事をすることしか出来なくて。

そんな彼らを呆れた表情で見つめる、カルエゴ。 面倒な男に目をつけられたもんだと、ほんの少しだけ、問題児アブノーマルたちに同情する彼なのだった。




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