第18話「愛を込めて献立を」のスキ魔



「なぁ、ジャジー…」
「んー? どした?」

ポーッと、惚けた声でジャスの名を呼ぶ、リード。 そんな彼の声に、軽い調子で答えるジャズ。 彼もまたリードと同じく、どこかうわの空な様子。

ぼおっと呆けるふたり。 そんな彼らの視線は先程から、ある人物だけを見つめていた。

ひらり。 視線の先で、揺れるエプロン。 結い上げられた髪で露わになる色っぽいうなじ。 料理の説明をする唇はぷるんと瑞々しく、その口から紡がれるのは、優しい声。 そして何より、彼らの脳裏に刻まれているのは…

「さっきのナマエさん… めっちゃ良い匂いしたよな…」
「……それな」

『本当に、真に受けないでね…?』
自分たちの耳元で囁いたナマエの姿を思い出し、リードとジャズの胸は、ドキドキと鼓動を加速させる。

すっかり、大人悪魔の魅力にヤられてしまったふたり。 彼らの頭の中は、先程のナマエの声や香り、仕草のことでいっぱいだった。

「声もさ、なんかこう… 優しいんだけど、ちょっとえっち、というか…」
「…分かるぜ。 清純そうに見えるのが逆にクるんだよな…」

まさに思春期真っ只中な、男の会話。 最も多感な時期の彼らにとって、ナマエがとった言動は、妄想を捗らせる材料でしかなかったのだ。

「…恋人とか、いんのかなぁ」
「…そりゃいるだろ。 あんだけ可愛いんだし」

そう言って、またもやナマエに視線を送るリードとジャス。 ダリと仲良さそうに話す彼女の姿に、ふたりの胸はチクッと痛みを感じてしまう。

「…恋人とも、あんな風に楽しそうに笑いながらお喋りするんだろうなぁ」
「おい、もうやめようぜ。 こんなこと話しても、虚しくなるだけ、だっ、て………」
「………」

リードの無性に虚しくなるような発言に、ジャズはストップをかける。 これ以上、この話題を話していても意味がない、別の話をしよう。 そう思った、はずなのに。 ジャズの言葉尻は、どんどん、どんどん、小さくなっていく。 リードに至っては、間抜けな顔で口をぽかんと開けていた。

しかし、それもそのはず。 ジャズが話していたその時に、ふたりの視線に気づいたナマエが、それはそれは柔らかく、微笑んでくれたのだ。

「はぁー…っ、くっそ! ナマエさんの恋人が… 超羨ましい…ッ!!!」
「あー、激しく同意…」

まだ見ぬナマエの恋人へ想いをぶつける、ふたり。 まさかのまさか、ダリがナマエの恋人だと発覚するのは、もう少し先のお話。



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