「なぁ、ジャジー…」
「んー? どした?」
ポーッと、惚けた声でジャスの名を呼ぶ、リード。 そんな彼の声に、軽い調子で答えるジャズ。 彼もまたリードと同じく、どこかうわの空な様子。
ぼおっと呆けるふたり。 そんな彼らの視線は先程から、ある人物だけを見つめていた。
ひらり。 視線の先で、揺れるエプロン。 結い上げられた髪で露わになる色っぽいうなじ。 料理の説明をする唇はぷるんと瑞々しく、その口から紡がれるのは、優しい声。 そして何より、彼らの脳裏に刻まれているのは…
「さっきのナマエさん… めっちゃ良い匂いしたよな…」
「……それな」
『本当に、真に受けないでね…?』
自分たちの耳元で囁いたナマエの姿を思い出し、リードとジャズの胸は、ドキドキと鼓動を加速させる。
すっかり、大人悪魔の魅力にヤられてしまったふたり。 彼らの頭の中は、先程のナマエの声や香り、仕草のことでいっぱいだった。
「声もさ、なんかこう… 優しいんだけど、ちょっとえっち、というか…」
「…分かるぜ。 清純そうに見えるのが逆にクるんだよな…」
まさに思春期真っ只中な、男の会話。 最も多感な時期の彼らにとって、ナマエがとった言動は、妄想を捗らせる材料でしかなかったのだ。
「…恋人とか、いんのかなぁ」
「…そりゃいるだろ。 あんだけ可愛いんだし」
そう言って、またもやナマエに視線を送るリードとジャス。 ダリと仲良さそうに話す彼女の姿に、ふたりの胸はチクッと痛みを感じてしまう。
「…恋人とも、あんな風に楽しそうに笑いながらお喋りするんだろうなぁ」
「おい、もうやめようぜ。 こんなこと話しても、虚しくなるだけ、だっ、て………」
「………」
リードの無性に虚しくなるような発言に、ジャズはストップをかける。 これ以上、この話題を話していても意味がない、別の話をしよう。 そう思った、はずなのに。 ジャズの言葉尻は、どんどん、どんどん、小さくなっていく。 リードに至っては、間抜けな顔で口をぽかんと開けていた。
しかし、それもそのはず。 ジャズが話していたその時に、ふたりの視線に気づいたナマエが、それはそれは柔らかく、微笑んでくれたのだ。
「はぁー…っ、くっそ! ナマエさんの恋人が… 超羨ましい…ッ!!!」
「あー、激しく同意…」
まだ見ぬナマエの恋人へ想いをぶつける、ふたり。 まさかのまさか、ダリがナマエの恋人だと発覚するのは、もう少し先のお話。