第14話「料理に火力は必須です」のスキ魔



ダリに呼び出され食堂に集まった教師陣。 キッチンのコンロが故障したと説明を受け、代替案はないかと相談された彼らは、それぞれに頭を悩ませていた。

「何か良い方法はないもんかね〜?」
「カセットコンロは? お鍋の時とかに使うやつ!」
「大量に作るから寸胴鍋とか使うんですよね? カセットコンロじゃ心許ないですよ…」

三人寄れば文殊の知恵とは言うけれど、現実はそう上手くはいかないようで。 ああでもないこうでもないと、様々な意見が飛び交う、そんな中。

「( あー… どうしよう。 "この案" ならきっと、問題なくナマエさんが料理できるんだろうけど… )」

そう心の中で呟いたのは、イフリート。 彼は相談を受けた直後の早い段階で "ある案" を思いついていた。 しかし、それにはとある問題が。

「( ダリ先生、めちゃくちゃ怒るだろうなー… まぁ、いつも目の前でイチャイチャされて腹立つし、たまには僕もナマエさんとゆっくり話したいから、遠慮することなんてないんだろうけど… )」

魔雀大会以降、いくら遠慮が無くなってきたとはいえ、ダリの目が全く気にならないと言えば嘘になる。 いくら欲望に忠実な悪魔と言えど、イフリートも常識ある大人だ。 普段世話になっている上司の恋人とどうこうなろうなんて大それたことは考えていない。 しかし彼の胸には、常に小さな炎が燻っていた。

毎日美味しい食事を作ってくれるところ。 美味しいと伝えれば、嬉しそうに笑ってくれるところ。 『お疲れ様です』と労いの言葉をかけてくれる優しいところ。 目が合えば優しく微笑んで、控えめに手を振ってくれるところ。

そんななんてことのない小さな日常の積み重ね。 ナマエの仕草ひとつひとつが、イフリートの心を豊かにしてくれる。 これが自分だけに向けられたものではないと分かっていても、彼の胸には熱いものが少しずつ蓄積されていたのだ。

「( 僕の炎なら、今のナマエさんの役に−−− )」
「イフリート先生の炎で、料理をすればいいんじゃないですか!?」
「えっ?」

それは、唐突だった。 まさかのまさか、ロビンからその発想が出るとは思わず、イフリートは瞠目する。 それはまさに、イフリート自身が考えていた案そのもので。

思わず舞い降りたチャンス。 断る理由など、どこにもない。 イフリートは決心する。

「…いやいやいや。 それはどうだろう、ロビン先生」
「さすがにイフリート先生に、そんなことをお願いするわけには…」
「いや、僕は全然構わないですけど」
「えっ?」
「ほら〜! だから言ったでしょ!!!」

ダリには悪いけれど、仕方ない。 今回は非常事態なのだから。 そんな適当な言い訳を、心の中で呟く。 自慢げに鼻を高くするロビンに内心感謝しつつ、イフリートの口元は緩く弧を描くのだった。



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