第13話「勝利の美酒に酔いしれて」のスキ魔



「魔雀は14枚の手牌を、3枚、3枚、3枚、3枚、2枚、に揃えるのが基本の形です」
「3枚組が4つと、2枚組が1つ…」

魔雀卓の上に並べられた牌を真剣に見つめるナマエ。 そんな彼女にこれまた真剣に魔雀のルールを教えるのは、ダリ。 その姿はさながら、教師… に見えなくもない。

ナマエとのデートを賭け、行った大勝負。 無事に勝利をおさめたダリは、上機嫌でナマエに懇切丁寧に魔雀のいろはを教え込んでいた。 やはり何だかんだと言っても、バビルスの教師統括。 人に物事を教えるのは得意分野のようで。 ダリの口調は、生徒に向けるものと同じように、次第に説明臭くなっていく。

「3枚で1組の部分は、全て同じもので揃える刻子コーツと、階段状に揃える順子シュンツの2パターンがあります。 2枚1組の部分は、雀頭ジャントウ… 我々は "アタマ" とよく言いますが、そのアタマは同じ牌を2つ揃えなければいけません」
「なるほど… 例えば……… こんな感じですか?」
「そうそう! 正解です! いやぁ〜! ナマエさんは飲み込みが早くて優秀ですね〜!」
「えへへ…」

手元に牌を並べて見せるナマエをこれでもかと褒めちぎるダリ。 先生口調のダリに褒められて、ナマエはすこし照れ臭いけれど、自然と頬が緩んでしまう。 嬉しそうに笑うナマエに、ダリも段々と気分が乗ってきて、先生口調はそのままに、ルールの説明を続けた。

「この形を基本として、様々なやくの条件を満たしながら牌を揃えていくのが、基本的な魔雀の流れとなります。 役に関しては、自力で覚えるしかありませんので… 実際に打ちながら、徐々に覚えていくようにしましょう!」
「…はいっ! 分かりました! ダリ先生!」
「っ、…!!」

まるで授業を受けているかのような雰囲気に、ノリノリで返事を返すナマエ。 生徒になりきるナマエのあまりの可愛らしさに、ダリの胸はガシっと思い切り鷲掴まれる。 キュンと高鳴りを繰り返す心臓。 ナマエの仕草は、ダリをこれでもかと悶えさせた。

「……こんなに可愛い生徒がいたら、そりゃあ手を出しちゃいますよね」
「えっ、…?」

とんでもなく恥ずかしい発言を、ダリはさらりと言ってのける。 はたから見ればとんだセクハラ発言だが、そこはご愛嬌。 このような場だからこそ許される浮かれた発言に、ナマエからの差し入れを食べながら様子を見ていた男3人は、呆れたように口を開いた。

「うわぁ… 今のものすごく変態くさいですよ、ダリ先生…」
「宝を狙う者には、凄惨たる教育を…」
「ナマエさん、今からでも遅くはありません。 その変態から離れて、こちらへ…!」
「いやいや君たち、開き直り過ぎでしょ…! もう少し遠慮ってものを覚えてはどうです?」

あんたが遠慮それを言うのか… 彼ら3人の頭には全く同じ言葉が浮かぶ。 しかし彼らの遠慮が無くなったというのも事実。 魔雀での勝負を終え、彼らもたがが外れてしまったようだった。

「…よし! 次はナマエさんも一緒に一局打ってみましょうか!」
「えっ!? 私もですかっ?」

未だモグモグと差し入れを食べている彼らを放置することに決めたダリは、ナマエに魔雀を打とうと提案する。 しかし、ナマエが教えてもらったのは、初歩中の初歩のルールのみ。 本番に挑むには少し心許ないと、彼女の視線はどんどん下へと下がっていった。

「ひとりで出来るか、不安です…」
「安心してください! 今回のナマエさんの席は "ここ" ですから!」
「っ、なっ!?」

"ここ"。 そう言って笑いながら、ポンポンと自分の膝を叩くダリ。 そんな彼の行動に驚き、ナマエは思わず言葉に詰まる。

どうすればそんなことを思いつくのか… 突拍子のないダリの発言に、ナマエは頭を悩ませる。 先程まで感じていた不安は、知らないうちにどこかへ飛んでいってしまった。

「そ、そんなところ、座れません…っ!」
「照れちゃって、もう。 可愛いなぁ。 それに、約束したでしょう?」
「や、約束…?」
「手取り足取り教えます、って。 僕は今日、ナマエさんの "先生" ですからね」
「っ、〜〜!!!」

グッとナマエの腰を引き寄せて、ダリは耳元で囁いた。 "先生" だとのたまう割に、それはいち生徒に対して、教師が取る行動と思えないものなのだが… この状況を楽しんでいるダリに、そのような現実的な話が通用するはずもない。

相も変わらず、イチャこらと。 それはそれはお熱いふたりに、ツムルたちは呆れの視線が半分、羨望の眼差しが半分。 ダリへのせめてもの腹いせにと、彼らは差し入れのおにぎりとサンドイッチを完食してやろうと、頷き合うのであった。



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