第6話「ほんのりと、お酒の味がした」 のスキ魔



「今日の飲み会、楽しかったですか…?」

晴れて、想いが通じ合ったダリとナマエ。 すっかりダリの酔いは冷めていたが、オトンジャと彼を呼びに行ったイフリートを無視するわけにもいかず。 彼らを待つ間、ふたりは沢山のことを話し合っていた。

その中の一幕。 話題は "今日の飲み会" について。 ナマエからの問い掛けに、ダリはウッ…と少し罪悪感に見舞われるけれど、正直に自分の気持ちを話すことにした。

「夕ご飯を準備してくれていたナマエさんには申し訳ないけど… うん。普通に楽しんできちゃいました…!」
「ふふっ。 あれだけ酔っ払ってましたもんね 」

申し訳なさそうにしながらも、正直な気持ちを話してくれるダリの態度を、ナマエはとても好ましく感じていた。 変に気を遣われても困る。 ナマエの言う通り、あれだけ酔って帰ってきておいて、楽しくなかったと言われても説得力のかけらもない。 ダリの正直な態度のおかげで、"ダリが楽しめて良かった" と、ナマエは心からそう思えることが出来たのだ。

「バラム先生からのお誘いだったんですよね?」
「そうそう。 困った時はお互い様なんですけどね。 バラム先生も律儀なひとだから… すごく感謝してくれましたよ」
「バラム先生かぁ。 私まだお会いしたことがなくて… どんな方なんですか?」

その質問に他意などない。 ただ純粋に疑問に思ったことを、口にしたナマエ。 しかし、そんなナマエの言葉に、ダリは要らぬ心配を抱いてしまったようだ。

「…ダメですよ、ナマエさん。 僕がいるのに他の男に興味持つなんて。 …妬けちゃうなぁ〜」
「っ…!」

ナマエの指に自分の指を絡ませながら、ダリはそんなことを口にした。 そのいじけるような口ぶりと、自分たちを取り巻く甘い雰囲気に、ナマエの胸の音はドキドキと加速していく。

「…なんてね。 冗談冗談…いや、半分は本音だけども」
「…! もうっ、ダリ先生…!」

おどけたように言ってみせるダリを、冗談だと受け取ったナマエは不満そうに口を尖らせる。 実際のところ、ダリにとっては全くの冗談ということも無かったのだが… そのような独占欲を丸出しにするわけにもいかないと、ここは一旦引き下がることにする。

「あはは。ごめんごめん。 …えっとバラム先生でしたっけ? 彼は、うーん… そうだなぁ。 単刀直入に言うと、"変わってる" かな?」
「変わってる…?」

ダリは普段のバラムを思い出し、浮かんだ言葉を正直に口にした。 あらゆる生物が大好きで、その研究に没頭する彼。 その見た目により、周りの者から恐れられているけれど、心根の優しい、立派なバビルスの教師だ。

「誰にでも分け隔てなく平等に接する事の出来る優しい先生なんですけど、趣味が高じて生徒たちから少し怖がられてるんですよねぇ…」
「そうなんですね… でもダリ先生の話を聞く限り、とても怖いひとには思えないんですが…」

ダリの話だけを鑑みれば、バラムに恐れるような要素はひとつもなくて、ナマエは不思議そうに首を傾げる。 そんな彼女の仕草が微笑ましくて、ダリはフッと笑みをこぼした。

「もちろん、僕は彼のことをとても信頼しているし、尊敬もしていますから。 怖いだなんて思ったことはないですよ。 僕のそんな気持ちが、ナマエさんにも伝わったんじゃないですかね」
「ふふっ。 素敵な関係なんですね」

"素敵な関係" その言葉はダリの心をじんわりと温かくしてくれた。 ダリにとってバビルスの教師達は、共に切磋琢磨する大切な仲間だ。 そんな彼らとの関係を "素敵" と言ってくれるナマエの心根がとても好ましく思えたのだ。

「他にも、参加された先生はいるんですか?」
「! そういえば! カルエゴ先生も来てくれたんですよ。 いやぁ、彼がああいう場に来るなんて珍しくてね。 ついついテンションが上がっちゃって!」
「カルエゴ先生って、確か… 問題児アブノーマルクラスの担任の?」
「そうそう! 彼、飲み会とか全く来ないタイプなんだけど、今日はバラム先生と一緒だったからね〜」

教師寮で生活のほとんどを過ごしているナマエ。 彼女はバビルスの関係者でありながら、校内の事情にはてんで疎かった。 しかしそんなナマエでも、知っている問題児アブノーマルというクラスの存在。 その担任を任されているカルエゴの噂は、小耳に挟む程度にはナマエの元にも届いていたのだ。

「あとは、ブエル先生、イフリート先生、ライム先生に、スージー先生… だったかな」
「ライム先生と、スージー先生…」

突如ダリの口から現れた、女性陣の名前。 今までの楽しい気分が一変。 ナマエの心には、モヤモヤと影が差していく。 もちろん、それが仕事上での付き合いだということは分かっている。 けれど、目の前の大好きな彼と、少しの間とはいえ、楽しいひと時を過ごした彼女たちを、羨ましく思わないわけがない。

「? どうしました? ナマエさん?」
「……ずるいです」
「えっ?」
「ダリ先生と飲みに行けるなんて、ライム先生たちが羨ましいです…」
「っ、」
「それに…」

どんどん欲張りになっていく自分に戸惑いながらも、ナマエの言葉は止まらなかった。 確かに羨ましいという気持ちもある。 しかしそれ以上に、ナマエの心を埋めていた感情があった。 それは…

「ダリ先生、カッコいいから… 取られちゃわないか、心配です……」
「………っ〜〜!!!」

美女と名高いサキュバスのライム。 そんな彼女が近くにいたと知って、心穏やかではいられなかった。 いわゆる、"ヤキモチ" という感情である。 …もっとも、ダリもライムも、お互いをどうこう思うような仲ではないのだが。

分かりやすく妬いてくれているナマエの態度に、ダリの胸はギュンと痛いほどに締め付けられる。 可愛いにも程がある… そんな言葉を胸に、ダリは性懲りも無く、悶えまくるのだった。



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