「ナマエさんの餃子はねぇ、皮から手作りなんです。 …皮からですよ!? 外はパリッと、中は驚くほどジューシーで、肉汁がジュワッと溢れてくる… 中華料理店を開けば大儲け間違いなしです!」
「…はぁ」
ダリの熱弁に、心底興味なさそうに返事を返すカルエゴ。 餃子を口に運び、『うん! 美味い! だけどナマエさんの餃子の方がもっと美味い!』 と言いながら、ビールをゴクゴクとあおるダリ。 普段の彼なら絶対言わないような、店主に対して微妙に失礼な言葉に、カルエゴは少し困惑していた。
「餃子に限らず! ナマエさんが手間暇かけて作った料理を、僕は毎日食べているんです! どうです!? 羨ましいでしょう!」
「いえ、全く」
「カルエゴくん、そこはノッてあげないと…!」
「何故私が興味もないことに話を合わせねばならんのだ」
自慢げに話すダリに対して、これまた心底どうでもいいと、カルエゴは辛辣に返事を返す。 そんな彼の態度に、バラムがすかさずフォローを入れるがそれも虚しく。 カルエゴは聞く耳持たず。 一刀両断してみせた。
飲み会が始まり、酒をどんどん飲み進めるに連れて、ダリの口は饒舌になっていった。 そして酔いが回った今、口を開けば、ナマエと言う者のことばかり。 いくら酔っ払いの戯言とはいえ、こちらにも限界というものがある。 いい加減にしろ。 カルエゴは内心、そんなことを思っていた。
「…シチロウ。 この状況はいったい何なのだ」
「いや、僕にもサッパリ…」
未だに目の前でナマエのことを語るダリを放って、カルエゴは隣に座るバラムに問い掛ける。 彼もこんな事になるとは予想だにしていなかったようで、困惑の色を隠せなかった。
「…ナマエさんって、ダリ先生の恋人なのかな?」
「ふん。 だとしたら、余程熱を上げているようだな。 …見ろ、あのだらしのない顔を」
「ほんと。 幸せそうに話すよね、ナマエさんのこと」
こちらのことなど構う事なく、ペラペラとナマエのことを話し続けるダリ。 そんな彼の表情からは、彼女を大層愛しんでいるのが伝わってくる。 カルエゴは辟易とし、バラムは微笑ましげにダリを見る。 ふたりは彼を見ているだけで、お腹いっぱい、満腹状態だった。
「カルエゴ先生! バラム先生! 聞いてますか!?」
「あっ、すみません。 少しカルエゴくんと話を…」
「も〜っ! ちゃんと聞いてくださいよ? ナマエさんの豚の角煮はですね、タレが絶品で、それはそれは柔らか〜く煮込んであって…」
「………」
ダリのナマエ談義は、終わらない。 もうこれ以上は食べられない、胃もたれする。 そう思っても、次から次へとダリの口は開かれて… 結局、彼が酔い潰れるまでそれは続けられたのだった。