第3話「恋は苦くて甘い味」 のスキ魔



「「「ご馳走様でした!!!」」」
「ふふっ、お粗末様でした」

まるで洗い立てのように綺麗になった皿を見て、ナマエの顔には思わず笑顔が浮かぶ。 あれから大量の料理を平らげた、マルバスとツムルとロビンの3人。 自分たちが使った食器をキッチンのカウンターに持っていくところまでが、食事の際の彼らの仕事だ。 重ねた皿をお盆に乗せ、ツムルたちがキッチンへ向かおうとした、その時だった。

「それにしても、どうして今日はこんなにご馳走だったんですか?」
「えっ…?」
「「…!」」

ロビンが何気なく発した言葉に、ナマエだけでなく、マルバスとツムルもピタリと動きを止める。 そんな彼らを不思議そうに眺める、ロビン。 気まずい。 マルバスとツムルの頭には、そんな言葉が浮かんでいた。 暫しの沈黙が、彼らの間に流れる。 けれど、それも束の間。 ハッと何かを思いついたかのような仕草を見せたあと、ロビンは大きな声でその口を開いた。

「もしかして今日、誰かの誕生日っ!?」
「っ、ちがうっつーのっ!!!」
「えっ!? あっ、それもそうか! 誕生日ケーキは無かったですもんねっ!」
「ケーキの有無で判断するんだ…」
「ふっ、ふふっ…! あははっ」

全く的外れなことを言うロビンに、ナマエは笑いが込み上げる。 そんな彼女の予想外の笑い声に、マルバスとツムルは、少し面を食らった。

「今日はダリ先生が久しぶりに帰ってくると思って、ちょっと、張り切りすぎちゃったんです」
「あぁ、なるほどっ! そういえばダリ先生、お疲れでしたもんね!!」

気まずい質問だったはずなのに、素直に答えるナマエの何と健気なことか。 マルバスとツムルは、その純粋さに思わずじーんと胸を熱くさせる。 そして期待を裏切らないロビンの反応には、毎度の如く苦笑いだ。

「…マルバス先生、ツムル先生、ロビン先生」

ナマエの優しげな声に呼ばれ、3人は同時に彼女へと視線を向ける。 視界に入ったナマエの表情は、とても柔らかく、慈愛に満ちていた。 しかし…

「たっくさん食べてくれて、ありがとうございました!」
「「っ、!」」

にっこりと。 まるで大輪の花が咲いたかのように、それは満面の笑みへと変わる。 その目まぐるしいほどの表情の変化から、マルバスとツムルは目が離せなかった。 一方、もうひとり。 ロビンはというと…

「こちらこそ美味しい料理、いつもありがとうございますッ!」
「ふふっ、どういたしまして。 ロビン先生!」

例の如く、通常運転。 もはや "お約束" である。 能天気なロビンとナマエの会話が聞こえ、マルバスとツムルは思わずハァと大きなため息を吐いた。 全く… こちらの気も知らないで。 そんな言葉がふたりの頭に浮かぶ。

「こんなに美味しい料理を毎日食べられるなんて、ナマエさんの旦那さんになるひとは幸せ者ですね!」
「いや、僕らも毎日食べてるからね…」
「ハッ! そっか! ってことはつまり… ナマエさんは僕たちみんなのお嫁さんっ!?」
「えっ!? 何その謎理論…っ! 怖っ…!!」
「おっまえ、今の絶対にダリ先生の前で言うなよ…ッ!?」
「?? どうしてダリ先生の前で言っちゃダメなんですか??」

あまりに破天荒なロビンの発言に、マルバスもツッコミが追いつかない。 "僕たちみんなのお嫁さん" というパワーワードには、ツムルが全力でロビンに言い聞かせる。 それでも頭に "?" を浮かべるロビンに、ツムルは内心ヒヤヒヤだ。

「あ、そうか! ダリ先生、ナマエさんにゾッコンですもんね! そりゃあ、怒られちゃいますよ!!」
「「…………」」

まさかのまさか。 ロビンもそこに気がついているとは思いもよらなかったマルバスとツムルは、あんぐりと口を開けている。 天然だと侮っていたが、コイツ… 中々やり手かもしれない…!! 謎の対抗心が芽生えるふたり。 一方、ナマエはというと…

「ぞ、ぞっこんって…! そ、そんなわけないじゃないですか! もう…っ!」
「「…………」」

真っ赤になって、熱くなった頬をパタパタと扇いでいて。 そんな可愛らしい反応に、言葉を失うふたり。

「真っ赤になっちゃって、可愛いですね!! ナマエさん!!」
「っ、も〜っ! からかわないでくださいっ、ロビン先生…っ!」
「「…………」」

やっぱりコイツ、大物かもしれない… ナマエとロビンの会話を聞いて、そう思う、マルバスとツムルであった。



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