第1話「隠し味は、愛情です」 のスキ魔



「( ダリ様… とっても嬉しそうですんじゃ )」

食堂の入り口からこっそりと、中の様子を伺う黒い影。 彼の視線の先には、ナマエと楽しそうに話しながら夜食を食べる、ダリの姿があった。

彼はダンタリオン家SD、影魔のオトンジャ。 教師陣からの信頼も厚く、教師寮の管理人も務めている。

夜の見回りを行っていた彼は、食堂からの物音に気づき、急いでこの場へとやって来たのだが… 何やらふたりは、良い雰囲気になっていて。 彼はこっそりと、ふたりの様子を見守っていたのだ。

「( …ダリ様、オトンジャには分かりますんじゃ。 きっとダリ様は、ナマエさんに… )」
「あれっ? オトンジャさん?」
「ッ!?」

突然名前を呼ばれ、オトンジャはハッと我に返る。 彼がその声を聞き間違えるわけがない。 その声のする方へゆっくりと視線を向ければ、オトンジャの予想通り。 そこには、不思議そうに首を傾げるダリの姿があった。

「どうしてこんなところに? …あっ、夜の見回りか」
「そ、そうですんじゃ…! 見回りをしていたら、食堂の方から物音がしたので、様子を見に…!」
「そっかそっか。 いやぁ、手間かけさせちゃってごめんね。 つい、ナマエさんと話し込んじゃって!」
「いえいえ! そんな…! とんでもですんじゃ…!」

ダリからの質問に答えるオトンジャだったが、覗いていたということはもちろん伏せておく。 ふたりの時間に水をさしてしまったことが申し訳なくて、彼はすぐにこの場を去ろうと口を開きかけたのだが…

「それでは、私は見回りに…」
「あっ! オトンジャさん…! 良かったら、こちらを…!」
「! ナマエさん… これは、いったい…?」

ナマエに呼び止められ、そちらへ視線を向ければ、手渡されたのは小さな手提げの紙袋。 これは一体何なのか。 全く想像も出来なくて、オトンジャは思わず首を傾げる。 そんな彼に、ナマエは優しく微笑むと、これまたとんでもなく優しい口調で話し始めた。

「お夜食のおにぎりです。 …いつも、夜遅くまでありがとうございます。 お口に合うか分かりませんが…」
「ナマエさん……!」
「僕からも。 いつもありがとう、オトンジャさん。 だけど、偶には息抜きも必要だからね。 ナマエさんのおにぎりは本当に美味いですよ〜!」
「ダリ様も……! っ、う、嬉しいんですんじゃ〜っ!!」
「わわっ、オトンジャさん…っ!?」
「あはは。 オトンジャさん、涙腺ゆるゆるだからねぇ」

ふたりからの労いの言葉に、元から緩いオトンジャの涙腺は、ものの見事に崩壊する。 ドバッと溢れる涙にあたふたと焦るナマエと、それを見て楽しそうに笑うダリ。 そんなふたりが纏う柔らかい雰囲気に、オトンジャの胸はほっこりと温かくなった。

「( ダリ様… きっとライバルは沢山いるんですんじゃ… 頑張ってくださいね )」

心の中でこっそりと。 オトンジャは、主人の恋を応援することに決めたのだった。



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