川西太一の推理

賢二郎と飲んだ翌日の昼頃、賢二郎から着信が入った。丁度バイトの休憩時間だったので、すぐに反応できた。俺は、なんてタイミングの良い男なのだろうか。

「もしもし?なに?振られたの?」
『んなわけねえだろ。冗談でもやめろ』
「あれ?なら何で連絡してきたんだ?」

てっきり余計拗れてしまったのかと不安になったが、どうやら違うらしい。まあ、この2人はなんだかんだお互いにゾッコンなので別れるわけがないとは思っていたが、それは黙っておこう。

『菫の相談が、想像以上に大事だった』
「へえ…。悪いんだけど、その話長くなる?休憩がもうすぐ終わるんだけど」
『チッ、タイミング悪ィな』

えー、舌打ちしたよこの人。相変わらず気が短いなとため息が漏れる。それも、相手が最上さんだったら、多少マシになるのだろうから、世界は不平等である。

『明日は?バイト?』
「夕方からな」
『なら、明日俺ん家来い。時間は合わせる』
「昼間とか?バイト終わりなら夜中になるけど?」
『どっちにしろ合わせるから来い。頼みがあんだよ』

珍しく余裕がなさそうな声に、首を傾げる。大抵のことは自分で解決してしまえるだけの頭を持っているだろうに。

『菫、ストーカーに遭ってるんだよ』

マジかよ、という思いは言葉にならなかった。







友人の彼女の一大事に、手を貸してやらないほど薄情な人間ではない。とは言え、最上さんの方は分からないが、賢二郎の交友関係は狭く深いタイプである。大学生活も3年目を迎えるが、俺に連絡を寄越してきたということは、大学の友人に最上さんを任したくないのだろうか。まあ、分からなくもない。

「白布って彼女いたんだ…」
「アイツら長いッスよ。高1からなんで」
「高1!!?」

正しくは高2だが、それを知っている人間は、当事者を除けば俺以外にはいない。

「意外と一途なんだな…いや、若利に対する態度からしたら、それもそうなのか…?」

隣を歩く瀬見さんが、感心したように呟いた。

「瀬見さんも一途じゃないスか。それにあいつらは…まあ…彼女の方が出来た女なんで、そう易々と賢二郎は手放しませんよ」

最上さん自身は自覚がないかもしれないが、俺達の学年では、彼女はダントツに人気があった。健気で可愛らしい印象の彼女は、男からしたら守ってあげたいと思わされる。運動神経は皆無だが、そこも可愛いポイントだったりする。賢二郎には口が裂けても言えないけど。

「最上菫さんだっけ?生徒会にいたよな?あのピアノが上手い可愛い子だろ?」
「そうスよ。瀬見さん、それ、賢二郎の前で言ったら殴られますよ」
「それ?」
「可愛いって」

賢二郎は、あれでいて独占欲が強いのである。束縛はしないようにしているようだが、最上さんが、他の男と話しているのを見た時の機嫌の悪さと言ったら…思い出したくない。

「マジかよ…俺、行って大丈夫なんだろうな?」
「瀬見さん、とうとう別れたんですか?」
「そんなわけねえじゃん。相変わらず、お前もかァいくねーな」
「…大丈夫ですよ。賢二郎には言ってあるんで」

瀬見さんは、高校卒業と同時に、男子バレー部のマネージャーをしていた先輩と付き合っている。なので、敢えて今日呼んだのだ。

「賢二郎のことだから、俺以外に声かけてないと思うんスよね」
「まあな。アイツ、人に頼るの苦手そうだもんな」
「俺も忙しいですし…」
「おい、俺が暇人みたいに言うな」
「言ってません」

あとは、最上さんの交友関係だが、多分、彼女の方も男友達は少ないだろう。それに、賢二郎以外の男に頼ろうとすれば、賢二郎は手に負えなくなりそうだ。そういうこともあの子は分かっている。だから、あの気難しい部分がある賢二郎と上手いことやれているんだ。

「…にしてもストーカーか。まあ、可愛いしピアニストを目指すだけあって、メディアにも出てたりするもんな、あの子」
「そうスね」
「警察には相談してねーの?」
「相談して、向こうがつけ上がるのを恐れてるみたいですよ」
「ああ…」

賢二郎の話によると、最上さんが住んでいるマンションを突き止めている上に、どこから漏れたのか分からないが、彼女の連絡先まで入手していたという。すぐにブロックしたと言っていたが、案外近いところに潜んでいるのではないだろうか。

「1番怖えのは、その子の大学にいるパターンだな」
「……怖いこと言わないでくださいよ、俺も思いましたけど」
「連絡先まで手に入れたんだろ?絶対やべえって」
「でも、多分最上さんは…なんて言われても大学は休まないと思いますよ」

一応休めと説得してみた方が良いとは思うが難しいだろうし、それは多分賢二郎もわかっている。彼女は、小さい頃からピアニストになることを夢見ていたという。そんな彼女がピアノと離れる生活なんて出来ないだろう。

「……どうすっかねー」

お互いがため息を吐いたタイミングは同じだった。


20210109




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