褒め褒め

今月は2日、夏休を習得しなければならないので、3連休ができた。楓にそのことを告げて、何処か行きたいところはあるか?と問う。旅行に行く余裕はないけれど、普段から寂しい思いをさせているはずなので、夏休みくらい思い出を作ってあげたかった。

「んー、お姉ちゃんと2人で?」
「そう、2人で。お友達呼びたいなら誘っても良いよ」
「……それなら、菅原先生も一緒が良い」
「え、」

思ってもみない言葉に目を開いた。流石に3人でお出かけは不味いと思う。誰かに見られたら、菅原の立場が悪くなってはいけないだろうし。かといって、これは一種の我儘だ。普段全く我儘を言わない妹のそんな願いを叶えてあげたいとも思う。私は、スマホを取り出して電話をかけた。

『どうしたの?』
「き、潔子!!お願いがあるの!!」







「そんな頑なに周りを警戒しなくても良いと思うけど」
「そういうわけにもいかないでしょ」

楓には、菅原の他に私の友人も呼ぶなら良いと言った。大人に紛れるのは居心地悪くはないかと思ったが、私の友人に会うのは嬉しいらしい。もしかして、背伸びをしたいお年頃というやつだろうか。何処に行くかと相談すると、海が良いと言い出したので、今日は潔子と水着を買いに来た。

「結局、誰が来るの?」
「潔子と菅原以外には声かけてないよ」
「私、その日病気になった方が良い?」
「!」
「ごめん、冗談」
「そんな真顔で冗談言わないでよ…」

言ったら悲しくなるので言わないが、学生時代の友人で、現在も交友が続いているのは潔子くらいだ。そんな潔子が来られなくなったら、海に行くこと自体がなくなるだろう。

「……前から気になっていたんだけど、菅原と寄り戻さないの?」

ようやく水着売り場に辿り着いたところで、顔色を伺うようにゆっくりと紡がれた問い。間髪入れずに、首を横に振った。

「戻さない」
「どうして?」
「私たちは今、妹の担任と保護者という関係だよ?無理でしょ」

これ以上、菅原の重荷にはなりたくない。

「本当にそれだけ?」

不意に潔子が足を止めて、私を見つめる。その真剣な眼差しは、私の心に潜む闇を見透かしているような気がしてならなかった。

「今更すぎるでしょ…。菅原には、私なんかよりも、もっと良い人がいると思う」
「桜は、菅原のこと過大評価しすぎで自分のことを過小評価しすぎ」
「そんなことない」
「そんなことある」

ない、あると押し問答が続き目があって笑い合う。このやりとりが、なんだか懐かしく感じられた。

「じゃあ質問を変えるけど、菅原のこと、どう思ってるの?」

ピクリと身体が跳ねた。目の前の彼女には、私の気持ちなんてお見通しだろうに。こんな質問を投げかけてくるなんて恨めしい。

「……菅原は、今も昔も、私にとっては日だまりのような人だよ」

その言葉を聞いた潔子は、目を細めた。

「だと思った。なら、歩み寄っても良いんじゃない?」
「うん…そうなんだけどね」
「楓ちゃんも懐いてるでしょ?」
「うん。担任だしね…」
「なら、菅原が担任じゃなくなったら?そしたらどうするの?その理由だけで、折れるような奴じゃないと思うけど」

視線が並べられている水着の方へと向く。それなのに、手に取って見ても、どれもしっくり来ない。潔子から紡がれる言葉が、刺すように胸へと降ってくる。

「あんなに傷つけるようなことばかり言ったのに、都合が良すぎないかな。私は、菅原の横に並べるような女じゃないように思えるの」

眩しすぎて。手の届かないような、太陽のように君臨する彼。その途端、視界に入った向日葵のデザインが施されたワンピースタイプの水着を握りしめる。それを咎めるように、潔子が元あったところに戻した。

「そういうところが過小評価しすぎ」
「………」
「19歳の時に親亡くして、まだ小さい妹の世話をしながらアルバイトと学業を両立させて、看護師にまでになった。今は自分で稼いだお金で楓ちゃんのことを育ててる。私の友人の中で、桜ほど立派な人間はいないと思ってる」
「潔子…」

ポンポンと優しく背中を叩かれた。そして再び水着へと視線が戻りつつも、柔らかい音がポロポロと降ってくる。

「菅原って良い奴だと思う。お調子が過ぎる時が、たまにキズだけど」
「ふはっ…まあ、それも可愛いところだけど」
「菅原、大学時代結構モテてたらしいよ。でも、彼女が出来たって噂は聴かなかった。それって、どう言うことか分かる?」
「!…待って、潔子、言わないで」

慌てて口を塞ごうとしたけれど、華麗にかわされる。聞きたくないと思ったのに。

「昔から、アイツは一途だったけど、それだけ桜に魅力があるってことだと思う」
「魅力…」
「でも、桜の良いところを挙げろと言われたら、その勝負に勝つのは私」
「いや、そんな勝負しないで…多分羞恥心に耐えられない」
「ネガティブガールな桜には、それくらい言う方が丁度良いかと思って」
「もう、今のでお腹いっぱいです」

熱くなった頬を誤魔化すように、両手でパタパタと仰いだ。

「だから、周りのことを気にせずに、桜は桜のしたいようにすれば良い。私は、いつだって、話は聞く」
「ありがとう…」
「…少しお節介すぎた?」
「んーん。私は友人に恵まれたなと思ってる」
「ふふ。それは私も、ずっと、桜の幸せを願ってるから」
「私も?」
「私も。あ、ねえ。これ桜に似合うと思う」

そう言って差し出された水着は、白のワンピースタイプの水着だった。私の好みも分かった上でのチョイスに、即決させてもらった。






20210207
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -