巡る季節

運動会が終ったタイミングで、"話したいことがある"と楓に声をかけた。夕飯を食卓に並べ、座るように促す。

「うん、なあに?」

腰を降ろして、両手を合わせていただきますをした後、楓は首を傾げた。私は、何回か深呼吸を繰り返して、この間菅原に言われた言葉を思い浮かべた。私を見つめる瞳が、菅原のやさしい顔を彷彿させる。

「実はね、今まで話してなかったけれど、楓のお父さんが楓に会いたがってるらしいの」

なるべく、やさしいトーンで。ゆっくりと。言葉を紡いでいく。

「楓。会ってみる?」

そう問いかけた後、俯いた。例え、どんな答えが返ってきたとしても、私は、その願いを叶えてあげたい。楓は、一度箸を置いた。そして、私の方を真っ直ぐ見つめて、ゆっくりと口を開く。

「ううん。会わない」
「え?」
「会いたくないから大丈夫」

首を横に振る楓。その言葉に、ホッと肩の力が抜けていくのが分かる。

「今更、お父さんなんて言われても困るもん。私には、お姉ちゃんがいれば良いの」

そんな言葉が、あまりにも嬉しくて。小さな胸騒ぎに気づけなかった。







それから月日は流れて、冬を迎え、また新しい年を迎えた。親戚の集まりの席は、とても疲れる。母親は親戚とは折り合いが良くなかったので余計に。かと言って、母親が病気になってからの私たちの生活を支えてくれていた人たちも多いので、蔑ろにはできない。困ったときはお互い様という言葉に倣って、挨拶回りをした。

「お姉ちゃん、雪ー!!」
「凄いね」

一通り挨拶回りを済ませて自宅に戻ってくると、楓は雪だるまをつくるんだ!と息込んで、家の近くの公園に一緒に行き、せっせと作業をはじめた。私は、その様子を見ながら、公園のベンチに腰掛ける。

「お姉ちゃんもやろうよー!」
「お姉ちゃんは、ちょっと休憩」
「えー…はあい」

黙々と雪だるまをつくる楓の様子を眺めながら、不在着信がきていた菅原へと電話をかける。何回かのコール音の後、

『もしもし、桜?』
「うん。電話来てたから折り返したんだけど、どうかした?」
『いや、新年の挨拶をと思って』

ラインでやりとりはしていたのに、律儀な人だと思った。

「ふふっ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
『あっ、俺から言おうと思ったのに!姉妹共々お世話してやるから、まかせろ!』
「ちょっと!何それー」
『楓さんは、今は一緒じゃないのか?』
「ん?いるよ」

雪だるまつくりに励んでいた楓を呼ぶ。

「なあに、お姉ちゃん?誰とお電話?」
「ん?菅原」
「菅原先生!?かわってかわって!!」
「あー、ごめん菅原。楓に変わるね」
『おー』

手袋を外して、私からスマホを受け取った楓。

「菅原先生!あけましておめでとうございます!あのね、私ね、雪だるまつくってたんですよ!」

嬉しそうに話をする楓を見ていると、真っ赤になった手が視界に入った。丁度、楓が見える位置に自販機が見えたので、飲み物を買ってくるねと指を指す。楓はコクコクと頷いてくれたので、温かいココアとお茶を買った。

「それでねそれでね…!」

ベンチに戻ってきて、目の前でどっちが良い?と問いかける。おしゃべりに夢中になりながらもココアを指さした楓。私は、蓋を開けて手渡してあげる。

「あ!じゃあ、お姉ちゃんに変わりますね!」

ココアと交換するようにスマホをもらった。私はそれを受け取って、スピーカーに切り替える。

「何の話してたの?」
「『秘密ー!!』」

声を揃えての返答に笑みが零れた。

「あ、菅原。スピーカーにしたから、楓にも声聞こえてるよ」
『あ、そうなんだ?』
「菅原先生聞こえますかー?」
『聞こえますよー!』
「ふふっ、前から似てるって思ってたけど、菅原と楓って更に似てきたよね」
「『やったー!!』」
「ふふっ。じゃあ、そろそろ切るよ」

楓に菅原に挨拶をするように促す。

「菅原先生!また新学期に会いましょう!」
「またね」
『おう、またなー』

プチンっと電話を切り、スマホをポケットへと戻す。ふと視線を感じて楓の方を見ると、ニヤニヤと笑っていた。

「なに?楓?」
「お姉ちゃん、嬉しそうだね?」
「そうー?」
「うんっ!お姉ちゃんが嬉しそうで、私も嬉しい!!菅原先生は、お姉ちゃんを笑顔にする天才だね!」

むぎゅっと抱きつかれる。その言葉に恥ずかしさを感じつつそんな楓の身体を抱きしめた。

「背、伸びたねー」

ふと、そんな変化に気がついた。知らないところで、グングン成長しているんだな。バレーをはじめたので、背は高ければ高い方が良いだろう。私は小柄だったからリベロだったけれど、楓はどれくらい伸びるだろうか。これからの成長が楽しみだなと思った。

「えへへ。お姉ちゃんを守れるくらい大きくなるね!」




20210222





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