したためた勇気
翌日。例の生き返った1年生こと虎杖悠仁くんのことは、しばらく死んだままにするらしい。五条先生曰く、早急に彼に力をつけて上から守りたい。その間、匿いたいとのことだった。…つまり、私は、みんなに嘘を吐かなければならないと言うことだ。

「おはよう、梓」
「こんぶー」
「…うん、おはよう」

今日は、1年生に会いに行く日だ。もうすぐ京都校との交流会がある。本来なら、2、3年生がメインのイベントなんだけど、今、3年生はやらかして停学中。私たち2年生が、いくら他の学年より人数が少し多いと言っても、乙骨くんは海外に行ってるし、人数が足りない。4年生に頼むわけにもいかないので、自然とお願いするなら1年生の2人になると言うことだ。

「大丈夫か?」
「うん…」
「おかか」

__大丈夫そうには見えない

「ちょっと、寝不足…昨日、バタバタしたから」
「ああ、例の1年生の件でか?」
「そんなとこ。真希ちゃんは?」
「先に行った。俺たちも急ごう」
「しゃけ」

余計なこと言ってないと良いけど…と言う言葉は飲み込んだ。でも、伏黒くんがいるなら、大丈夫だろうか。走っていく男子2人の背中を私も追いかける。ようやく彼らに追いついた頃、丁度真希ちゃんが1年生に声をかけようとしているところだった。狗巻くんとパンダくんは、何を思ったのか木の影に隠れている。

「なんだ、いつにも増して辛気臭いな、恵。………お通夜かよ?」
「禪院先輩」
「私を苗字で呼ぶんじゃ「真希、真希!!」」

遅かったか、と言うようにパンダくんが物陰から真希ちゃんを呼ぶ。だから、なんで隠れるようにして言うの?不思議に思いながら、私は真希ちゃんの横に並んだ。

「マジで死んでるんですよ、昨日!!1年坊が1人!!」
「おかか!!」
「は・や・く・言・え・や!!これじゃ、私が血も涙もねぇ鬼みてぇだろ!!」
「実際、そんな感じだぞ!?」
「ツナマヨ」

いつも通り喧嘩が始まり、呆れてため息が漏れる。やっぱり、ストッパーで癒しの乙骨くんがいないと、私たちは駄目だ。とは言え、私は唯一虎杖くんが生きていることを知っている罪悪感もあり、勇気を出して1年生に声をかけた。

「…ごめんね、真希ちゃんは本当に知らなくて…悪気はないから…」

謝罪の言葉の中に、生きていることを教えてあげられなくてごめんねと言う気持ちも込めた。伏黒くんと、横に座っていた女の子は軽く頭を下げてくれる。女の子の方は、コソッと伏黒くんに耳打ちしていた。大方、私たちのことを聞いてるんだと思う。

「何、あの人(?)たち」
「2年の先輩」

幸いにも、真希ちゃんたちは言い合いに夢中で、指を指されていることには気づいてないようだ。

「うるさくて、ごめんね…」
「この人は、須藤先輩。めっちゃ、頭良い」
「………え!?そ、そんなことは…ないです…」
「中学の時、全国模試で6位取った人が何言ってんすか」
「…何で、知ってるの……」

あれは、たまたま運が良く山が当たっただけで、普段なら、もっと下の順位だったと思う。それに、あの頃は友達もいなかったから、任務をするか勉強をするかの生活だったし…ゴニョゴニョと言い訳を並べてみるけど、2人は全く聞いてないようだ。そうこうしていると、みんなの言い合いが終わったようで、パンダくんが申し訳なさそうに手を合わせた。

「いやースマンな。喪中に。だが、オマエたちに”京都姉妹校交流会”に出てほしくてな」

パンダくんが1年生の疑問に丁寧に答えていく。京都校との交流会は2日間かけて行われる。初日が団体戦で2日目が個人戦だ。

「個人戦、団体戦って…戦うの!?呪術師同士で!?」
「ああ、殺す以外なら何してもいい呪術合戦だ」
「逆に殺されない様、ミッチリしごいてやるぞ」

パンダくんの言葉に、頭を抱えたのは私だった。1年生の実力は、女の子の方はわからないけれど、少なからず身体能力なら伏黒くんの方が私より上だ。というか、この中で、私、身体能力に関しては、1番だめな可能性がある。

「ククッ…」
「笑わないでよ、狗巻くん」
「明太子明太子?」

__鍛えてやる、覚悟しといて?

「程々に…してください…」

もうすぐ、繁忙期が終わる。任務も言い訳にできないだろう。

「で、やるだろ?仲間が死んだんだもんな」
「「やる」」

ニヤリ、と怪しく笑った真希ちゃんの問いに、1年生2人は即頷いた。

「でも、しごきも交流会も意味がないと思ったら、即辞めるから」

そう言ったのは、伏黒くんではなく、意外にも女の子の方だった。美人で綺麗な顔立ちをしている彼女は、どうやら、気が強いようだ。とても、呪術師向きな性格をしているように見受けられる。彼女の言葉に、伏黒くんが、同じく、と頷いている。

「ハッ」
「まあ、こん位生意気な方が、やり甲斐あるわな」
「おかか」

頼もしい後輩の姿に、みんな嬉しそうだ。

「あー………乙骨くんに会いたい………」
「……高菜?」

__なんか言った?

「何でもないです…何で、そんなに睨むの狗巻くん…!」
「おいこら、何イチャついてんだ?」
「真希ちゃん!何処をどう見たらそうなるの…?」

ニヤニヤした顔で真希ちゃんが私と狗巻くんの間に入る。

「あの2人はな…」
「パンダくん、何言おうとしてるの!?」

かと思えば、パンダくんが後輩2人に近寄って、こそこそと何かを良からぬことを言おうとしているし、助けを求めよう狗巻くんの方を見たら、なぜか彼は笑っていた。

「クックッ、」
「狗巻くん、その笑い方、五条先生そっくりだからね!!」
「「梓、うるさい」」
「すじこ」
「もうやだ…この人たち…」

ほんと…早く帰ってきて、乙骨くん。ガクリ、と肩を落とした。そんな私の背中を、伏黒くんがポンポンと叩く。その目は明らかに同情していた。

「大変すね。ま、俺的には須藤先輩がいてくれて、良かったスけど」
「乙骨くんより…?」
「………ノーコメントで」
「なんでよ…」

まあ、この悪ノリ大好きな彼らを唯一止められるのは乙骨くんくらいだけど。私の言うことなんて聞いてくれないんだから。狗巻くんに至っては、怒る私を見て、最近は余計に楽しんでいる節がある。

「はあ……とりあえず、女の子の方の、お名前聞いても良い?私、伏黒くんのことは中学から知ってるから」
「釘崎野薔薇…です」
「さっきも紹介があった通り、須藤梓です。好きに呼んでください…」
「あ、ハイ」

未だにギャーギャー騒いでいる2年生たちを遠い目をして見ながら、私は、1年生との交流を深めるべく、頑張った。









20201120
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