山頂についた時には、空気が冷たくなり始めていた。夕暮れから夜に移り変わってゆく刻。一番星が見つかるかな? はしゃぎながら高みからの景色を楽しんだ。

「二人きりでここに来るのって、いつぶりだっけ?」

 振り向くと、ヴェンが考えるそぶりをする。

「テラとアクアがマスターになる前の任務のときだから……結構、前かな」

 適当な返事にふふ、と笑った。ヴェンを独り占めできることが嬉しすぎて落ち着かない。

「フィリア」

 おいで、とヴェンが両腕を広げている。迷わず飛び込んで、しばらく互いを抱きしめあいながら笑いあった。ヴェンのことが大好き。大好き! ぐりぐり彼の首元に頭を擦りつけるとヴェンがくすぐったいと微笑んだ。

「そういえば、ヴェン。どうしてヴァニタスのところに行っていたの?」
「ここでアイツの名前を言う?」

 ヴェンはちょっと不満そうな声だったけれど、すぐに笑顔に戻って、ポケットから輝く石を取り出した。黄色の水晶の中に紫の光が渦巻いていて、とても強い魔力を感じる。

「わぁ、すごい……これ、合成の材料?」
「そう。秘められし原石だよ。ヴァニタスに会いに行ったのはアイスを作るためだったんだけど……荒野に行ったらいきなり白黒のヴァニタスが襲ってきて――倒したらこれが落ちていたんだ」
「白黒のヴァニタス?」

 なんだろう、それ?
 パンダの姿のヴァニタスが脳裏に浮かんだ。

「よく分からない。その後でちゃんと本物のヴァニタスにも会ったよ」

 ヴァニタスに本物と偽者があるのだろうか? 考え込んでいると、ヴェンが「とにかく」と話をまとめた。

「これ、きれいだからフィリアにあげる。俺からのバレンタインデー」

 暗闇に仄かに輝く原石は、まるで宝石みたいに美しい。

「ありがとう。大切にするね。……なんだか悪いな。私の、ただのチョコなのに」
「フィリア俺のために手作りしてくれたんだから、特別だよ」

 ヴェンは優しいからそう言ってくれるけど、やっぱり申し訳ない気持ちになった。
 こうなったら……こうなったら普段できないことを、勇気を出して――

「ヴェン、ちょっと動かないでね」

 彼の目もとを手で覆い隠し、思いきってくちづけした。恥ずかしいから一瞬だけ。すぐに手を離し、照れ隠しに背を向けるとヴェンの手が追いかけてくる。迫ってくる彼の顔――うっとり目を潤ませたヴェンが見えた。

「いまの、もう一回……」

 うしろから抱きしめられて、見上げるかたちでキスをする。チョコも原石も落とし抱きしめあって「あともう一回」を何度も何度も繰り返した。





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