トワイライトタウンの夕日を一望できる時計塔の上。そこで改めてロクサスにチョコを手渡した。ロクサスはわくわく包みを解いて大きなチョコに「でっかい」と感動してくれた。

「フィリア、ありがとう!」
「うん」

 満面の笑みで喜んでもらえて、こちらも幸せな気持ちになる。しかし、早々に食べるのかと思いきやロクサスはじっと見つめたまま動かない。あれれ。

「……食べないの?」
「た、食べる!」

 何を緊張しているのだろう。手袋を脱ぎ、そうっと持ち上げて恐る恐るチョコを齧るロクサス。あ、チョコが大きいから頬についた。
 彼はしばらく味わって「甘い」と驚き、それから「すっごくおいしいよ」と瞳をキラキラ輝かせた。初々しい反応――もしかしてチョコを食べるのは初めてだったのかな。

「ロクサス、もう消えちゃったりしなそう?」
「ああ。フィリアのチョコを食べたからもう大丈夫」

 夕日のなか、微笑みが眩しい。しばし見惚れていると不思議がられ、照れ隠しに心にもないことを口走ってしまった。

「良かった……えっと……それじゃあチョコのお礼、期待してるね!」

 ロクサスがチョコがついた唇をペロッと舐める。

「お礼って何?」
「ホワイトデーっていうの。知らない?」
「アクセルからはバレンタインのことしか聞いてない。フィリアの心を籠めたものを、誰かにあげちゃう日なんだって」

 最初からちょっとおかしいなって思っていたけれど、やっぱりアクセルが事の発端だったのか。まったく、もう。

「バレンタインで贈り物を貰ったら、一ヵ月後に、今度は受け取った人がお礼を贈るの」
「そっか――そうだよな。ちゃんとお返ししなくちゃ不公平だ」

 すぐに信じてくれたロクサス。素直なのは彼の美徳だけれど、たまに変なことまで覚えてくるんじゃないかって心配になる。

「ロクサスは何をくれるの?」
「ん〜、ちょっと待ってくれよ。すぐには思いつかない」
「私ね、すごく欲しいものがあるの」
「なに? 俺に贈れるもの?」

 屈託のない笑顔……もどかしい。
 ねぇ、どうして私の心を欲しがってくれたの。
 彼の肩に手を伸ばし、ぐいと引っ張る。直接唇へ――は勇気がなかったので、ほっぺに付いてたチョコの部分にキスをした。ロクサスの耳がカッと赤くなったのが見えた。
 顔を近づけたまま、ないしょ話をするように囁き告げた。

「ロクサスの心……私の心をあげたから、私にはロクサスの心をちょうだい」

 ロクサスは赤い顔でポカンと頬を押さえ「でも、もらったのはチョコだぞ?」と言った。ずるっと時計塔から落ちそうになる。

「分かった。キングダムハーツを完成させて心を手に入れたら、俺の心をフィリアにあげるよ」
「それは、ちょっと違うんだけど……」

 せっかく積極的に求めてくれたと思ったのに――超天然な彼との距離はまだまだ先が長そうだ。





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