※念のためR-15
非情にぬるいですが、そういった表現があります。苦手な方はご遠慮ください。




 
 
 
今日は生徒会が長引いている。
そのせいで、部活には大幅に遅れている。
書記である俺は、話の路線のずれた討論を繰り広げる会長と会計の会話を記録する他無かった。
他の部活の余ってしまった予算など、テニス部に回してしまえば良いのだ。とは、書記の俺は言えない。

しばらく話が何度も同じ所をさ迷い始めたので、空いた窓から入る風に当たりながら、外の音を拾う。生徒会室がある棟からは逆に位置するテニスコートから微かにボールを打つ音が風に乗って聞こえる。
夏の終わりの日射しの薄い今、テニスをする環境としては絶好である。
こんな無駄な討論を書き記すだけなら、今すぐに部活に行きたいものだ。

外に耳を傾けていると、聞き慣れた声が耳に入った。
この声は仁王だ。
テニスコートから離れた、この場所に居ると言う事は、『仁王の見つけた涼しい場所ベスト3』であるあの木陰でサボっていたのだろう。後で弦一郎に報告だな。
おっと、生徒会のノートに記してしまった。 どうせこのページに書き記した記述は無用な話しばかりなので紙ごと捨てておこう。

ん?だが、仁王の声が聞こえるとなると、誰か一緒にいるのだろうか。仁王は独り言を言うようなタイプではない。まさか涼しい場所を求めて丸井や赤也が一緒にサボっているんじゃなかろうか。


「――…だから…さわんないで…」



微かに聞こえた声は、予想に反して女性の声だった。
しかもこの声は、俺の幼なじみであり、同じクラスで女子テニス部の名前だ。
だが、テニスに関しては真面目な名前がどうして仁王とここにいる?


「――ちょ…やだ…やめ――っ」


雲行きが怪しくなってきたようだが…。


「やっ――…おねが…ほんとにやめっ…!」

「えぇから、はよう出しんしゃい。その方が楽になる」



開いている窓際に座るのは、書記をしている俺と副会長だ。
だが、副会長は意味の無い討論に参戦してさらにヒートアップしているため、生徒会室で外からの声が聞き取れるのは『地獄耳』と言われた俺だけだろう。討論がヒートアップしていなくても他の連中には三階から一階の会話は聞き取れる確率は非常に低い。
いや、そんな事を分析している場合ではない。仁王は嫌がる名前に何をしている?
名前の声は今にも泣き出しそうな声だ。いつもの活発な名前からは想像がつかないぐらいに小さく、弱々しい。
いつもの名前なら、仁王に嫌がらせを受けようものなら仕返しで鉄拳をお見舞いしているはずだ。
それなのに、


「ほんと…おしちゃ――っぅ…ぁ……―」

「ほら」

「ゃ…――!!」



気づけば立ち上がっていた。
それまで右手しか動かして居なかった俺がいきなり立ち上がった為に隣にいた副会長が大袈裟に肩を跳ねさせる。
「ど、どうした?」としどろもどろになって聞かれれば、「申し訳ないが、部室に大事な資料を忘れてきてしまったようだ。急いで取りに行っても構わないか?」などと、俺にしては頭の悪い言い訳をしてしまった。こんな会議に資料などあって無いような物だし、部室に置くような物でもない。ただ今俺は混乱してしまっているのだろう。
副会長は「あ、あぁ。もうこんな時間か…。お前部活あるだろ?もしアレなら行ってても大丈夫だぞ」と言った。頭の回らない俺は、「今更そう言われるならもっと早くに行動するべきだった」と後悔した。いつもならこの程度の予測ならつけられた筈なのに。
「すまないな」と言い、未だ討論が続く生徒会室を足早に出る。
向かう先は、既に練習試合をやっているテニスコートでも、鞄や上着などが置き去りになってしまっている教室でもなく、この楝に隣接する中庭だ。

無駄に渡り廊下の方まで行かなければ外に出られない学校の設計を恨んだ。
玄関までは行っていては大幅に時間をロスするため、上履きのまま中庭に出る。後で雑巾を借りればいい。

中庭に出ると、一応ユニフォームに着替えていたらしい仁王の辛子色が目に入った。傍らには、同じくユニフォーム姿の名前が蹲っていた。
俺に気づいた仁王は、態度も表情も変わらず「柳か、上履きのままどうしたんじゃ?」と聞いてきて俺を苛立たせた。
その声に、遅れて俺の存在に気付いた名前が、少し息の上がった声で「蓮二…?」と顔を上げる。

涙が溜まった目尻。
薄く染まった頬。
気だるそうな表情。


「名前」


俺は仁王と名前間に入り、名前の手を取る。
名前は昔よくそうした様に、首元にすがり付いてきた。それに答えるように、俺も昔のように名前を抱き上げる。


「なんじゃ、おっかない顔じゃな。いくら俺でも参謀の幼なじみには手は出せんぜよ。」

「…お前がサボっていた事は後で弦一郎には伝えておこう。」


名前を抱いたまま中庭を出る。
飄々と答える仁王に返した言葉がこれだけだ。『達人』やら『参謀』やらと呼ばれた自分がとてつもなく赤子のように思えた。



「ありがとう蓮二。
あービックリした。まさか自分があんな風になるなんて思わなくて。仁王がいて助かった!ほんとに直ぐに楽になっちゃった」



そう、意外に元気に話す名前。腹が立つ。何故…。





「まさかあのぐらいで吐くとは思わなくって…」




「…うん?」











後で知った真実に珍しく赤面してしまい、赤也に写メを撮られた。
後で消すまでエンドレス膝カックンだ。







名前視点



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学校の地形は勝手に捏造した。


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