※嘔吐表現アリ




 
今日は日が出てはいるが、もう夏は終りなのか、風は涼しく、快適だった。
だから部活前半の自主練時間をつかって、持久力をつけるために一人で校舎の回りを走ることにした。

そう、涼しかったから。

だが、校舎を二周しないうちに息が上がった。
自分はここまで持久力が無かったかな…?
足が地面に吸い寄せられるように重くなる。
腕を降るのも億劫になる。
太陽が雲に隠れた訳でも無いのに視界が暗くなった気がする。
日射し、こんなに強かったかな…。なんだか…とてつもなく暑い。

一周半を周り、校舎の日陰になったとこで、足を止めた。
視界がぐるぐる回る。
倒れる様な錯覚に、堪らずしゃがみこんだ。
気持ち悪い。

しゃがみこんだまま深呼吸をすると、少し楽になった。
気持ち悪いが、吐くのは嫌いだ。このまま落ち着けば大丈夫だろう。
そうしてしゃがみこんでいると、木陰から仁王が現れた。
こいつ、サボってたな。


「なんじゃ?サボりか」


お前と一緒にすんな。

「ちょっと気持ち悪いだけだから…。すぐ治まると思う…さわんないで…―。」
声を出すと余計に息が切れた。
喋ると息が乱れて気持ち悪さが戻ってきた。良いからほっといてくれ。


「吐きそうなんか。
今日は風は冷たいから涼しいがの、意外に日は暑いからの。」


そう言いながら隣にしゃがみこんでくる。
今日は暑かったのか。こいつ暑いの苦手だから敏感なんだろうなぁ…。と思ってたら、いきなり腹を押された。


「――っ…!?ちょ…やだ…やめ――っ!」


いきなり押された事で吐き気はMAX状態。
何しやがるんだこのクソ詐欺師。殺す気か。マジで、冗談抜きで止めろ。
色々罵声を浴びせてやりたいが、吐き気で声をあげられない。今怒鳴ったら間違いなく吐く。
喉とか痛くなるし、あの独特な匂いと味が心底嫌いだから吐きたくない。
文句を言っても、仁王は構わず腹を押してきた。
地面に手を付いて我慢することしか出来ず、仁王の手を制止出来ない。


「やっ――…おねが…ほんとにやめっ…!」

「えぇから、はよう出しんしゃい。その方が楽になる」


確かにそうかもしれないが、吐くのは嫌だ。絶対やだ。
喉も痛くなるし、味気持ち悪いし、しかも人前で吐くとか恥ずかしい。嫌だ。
だが、制止することも出来ずただ生理的な涙を流して耐えるしか無かった。


「ほんと…おしちゃ――っぅ…ぁ……―」

「ほら」


行動とは裏腹に、優しい声で促す仁王。
腹を押す手とは逆の手が優しく背中を撫でる。
それ以上やられたら…ほんとに…。


「ゃ…――!!」


もう無理だ。
私はその場に吐いてしまった。
仁王は変わらず、背中を撫で続けてくれてる。
ホント、恥ずかしい。
仁王は、落ち着くまで暫く背中を撫でたり頭を撫でたりしてくれていた。


「……ごめん、ありがとう。ホントに楽になった」

「ピヨ」


仁王は、私の頭をわさわさと撫でると、立ち上がった。
私も立ち上がろうと思ったが、また気持ち悪くなりそうなので、嘔吐物から離れるだけにした。


「柳か、上履きのままどうしたんじゃ?」


唐突に誰かに話しかけた仁王に少なからず驚いた。しかも、蓮二?上履きを履いたまま?


「蓮二…?」

「名前」


振り返ると、走ったのか少し息の上がった蓮二がいた。蓮二が上履きのまま中庭に出るなんていったいどうしたのだろう。
そんな事を考えていると、蓮二が手を取ってくれた。
立ち上がれない事を察してくれたのだろうか?
私はそれがうれしくて、思わず昔良くやって貰ったように抱きついて、抱き上げて貰う。
意外と蓮二は力持ちだ。


「なんじゃ、おっかない顔じゃな。いくら俺でも参謀の幼なじみには手は出せんぜよ。」

「…お前がサボっていた事は後で弦一郎には伝えておこう。」


蓮二の声のトーンはたしかに低かった。仁王がサボるなんていつもの事なのに、今日の蓮二は気分が悪いのだろうか?
蓮二は、私が仁王にもう一度ありがとうを言う暇もなく、そのまま中庭をスタスタと出ていく。
後で仁王にもう一度言っておこう。


「ありがとう蓮二。
あービックリした。まさか自分があんな風になるなんて思わなくて。仁王がいて助かった!ほんとに直ぐに楽になっちゃった」


蓮二の表情はいつも読み取りにくいが、今日は何か怒っているように感じる。
私が自分の体調管理を怠っていたから、心配してなのかな…。


「まさか吐くとは思わなくって…。」

「…うん?」


ん?
何故か疑問符を投げ掛けられた。
スタスタ進んでいた蓮二の足も止まる。


「え、だから…今日暑くないし、持久走やろうかなと思って校舎周り走ってたら気持ち悪くなっちゃって…。
仁王に心配させちゃったなぁ。」

「……」


蓮二が黙り込んだ。「蓮二?」と顔を覗くと、次はいきなり顔を紅くした。


「えぇっ!?蓮二?」


怒っているように見えたさっきの表情とはまるで違い、赤面して狼狽している。こんな蓮二、滅多に見れない。と言うか、めっちゃかわいい…。あ、携帯部室だ。撮りたかった。


「す…すまない…名前…」


何で謝られたんだろう。
蓮二は何故か恥ずかしくて堪らないようで、玄関から校舎に入って私を下ろした後、暫くうつ向いて項垂れていた。

何だか変な蓮二。









「ちくしょー…補習なんてやってらんねぇっての…。
あれ?柳先輩どうしたん…
!ちょ!マジでどうしたんすか!
『ピローン♪』顔めっちゃ赤いですよ!
うわ…激レア…」

「――赤也…」

「げッ……」










END.

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仁王ってドキサバとかモアプリでは結構心配してくれるよね。
実際はちゃかしつつ何気なく介抱してくれそう。


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