「名前さん、これバレンタインのお返しです」
「私、木手くんにバレンタインのチョコあげてないよね?」
「知っていますよ。君が恥ずかしがり屋さんで、俺にチョコを渡し損ねた事くらい。」
もうやだこの人怖い
Bitter...?
最近の悩み事。
●愛用のヘアピン(うさちゃん)を学校で無くしてしまった事
●昨日の晩御飯の残りのマカロニサラダを朝に食べ損ねた事
●木手くんに妙に好かれている事
上ふたつは私の完全な不注意なのだが、3つ目はもうお手上げ状態。
全く木手くんに好かれる要素が無いので、木手くんファンクラブの皆さんに「アンタ木手様のなんなのよ!何をして取り入ったのよ!」とキーキー喚かれた事がある。ちなみにファンクラブの皆さんには「私が知りてぇよ!!」と逆ギレしたらお引き取り願えた。
今回だって、わざわざ昼休みに嬉々として私の教室にやってきて
「貴女の気持ち、嬉しかったです」
と渡してもいないバレンタインのプレゼントの感想を添えて、そっと箱を手渡された。
この人、やっぱり顔は良いけどちょっと思考回路がアレみたいだなぁとボンヤリ考えてる最中です。何この綺麗にラッピングされた箱…
「初めてチョコレートを作りましたが、なかなかイメージ通りに作れなくて…」
皆さん聞きましたか。あの「殺し屋」の異名を持っている木手くんがチョコを手作りしたって。
しかも、よく見たら湯煎で火傷したのか…はたまた怪我したのか、彼の指先には絆創膏が貼られていた。
私、チョコあげてないのに。
愛が重いです。
「今、開けて頂けませんか?」
あのね、今まで私が彼の攻撃(腰に手を回されたり、縦笛盗られたり、アドレス教えてもいないのにやたらメールが来たり)に耐えて来た理由は
木手くんが怖いからなんだ。だって「殺し屋」だよ「殺し屋」。その怖いっていう事を言っただけでスッパリ殺られそうだもん。
つまり、そんなドチキンの私は彼の「今ここで開けろ」という命令に逆らえないわけで。
「え・あ、うん」とぎこちなく頷いてから箸を置き、ラッピングを解き出した。誰か私に勇気を下さい。
「…ん?」
可愛いらしい箱に書かれていた
I LOVE YOUの文字を無視して急いで蓋を開けてみれば、抹茶のトリュフチョコが綺麗に並んでいた。
「お口に合うかどうか…」
何だこの食えという無言のシチュエーションと圧力。
まじかよ…手作りチョコを受け取って食べるとか、もう木手くんの重たい愛を受け取るって言うようなモンじゃないか。
それだけは避けたい。避けたいけど…
殺し屋にスッパリ殺られたくないチキンの私は、目を泳がせつつチョコに添えられていたハートマーク(紫色)のピックを摘んだ。
「い、ただきます」
来世は勇気を兼ね備えた人間になれますように、そう願って抹茶チョコを口に入れる。
「苦ッ!!」
「ゴーヤですから」
抹茶じゃなかった。
そんな某CMの「大豆ですから」みたいにアッサリ返されても。しかもそんなどや顔されても。
私は目を白黒させながら、何とかその苦いトリュフを飲み込んだ。…うぇぇ…!喉に味が…!青臭い独特の味が…!!
「どうでしたか?俺のオリジナルチョコレート」
二度と作るな。なんて言えない私は、涙目で「苦い」と小さく呟く事で抵抗してみた。
「おや、苦いものは嫌いでしたか」
ナチュラルに私の横の席にいたクラスメイトを押し退け、その椅子に座る木手くん。椅子を奪われた藤崎くんは、私と同じように涙目になっていた。なんかごめん藤崎くん。そんな目を向けられても、私はこの人を咎める勇気はないんだよ。
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