「幸村くん、今日の調子はどう?」


毎日、俺の病室を訪れる一人の女の子がいた。
同級生でも肉親でもない、病室が違う患者同士。初めはそう思っていたし、特に興味もなかった。













自分の病気のこと、テニスのこと。俺が生きることに意味を失いかけた時も、彼女はいつも俺の病室に花を飾りに来た。
断る理由すら考えられなかった俺は、彼女が一輪挿しに花を飾りながら色々と話しているのを適当に聞き流すのがお約束だった。…今思えば、もっと話しておけば良かったな。


「幸村って、綺麗な名前だね」
「そうかな」
「うん、私は好き」


彼女が自分の病室に戻ってからは、よく花を眺めていた。テニスが出来ないこの体と、一輪挿しの中で健気に咲き誇る名も知らない花。彼女の笑った顔がフラッシュバックして、無性に泣きたくなった。

リハビリが始まってからも、病室に帰ると必ず新しい花が飾ってあった。「毎日毎日、律儀だな」なんて思う反面、無言の励ましを受けているようで嬉しかった。そういえば俺は彼女の事を何も知らない。病室も名前も、何故入院しているかも。

彼女の行動する時間と、俺が病室にいる時間が合わなくなってから…何日後だったかな。花が代わらなくなった。忙しいのかと思っていたが、その日を境に新しい花が飾られる事は無くなって、俺は「飽きたんだろう」…単純にそう思った。


勝手だけど、なんだか寂しかった。


 
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