あの日は珍しく雪が降っていた。


赤也やブン太が喜びそうだな…そう考えながら購買へ向かった俺の目に飛び込んで来たのは、扉が全開になった個室。時々しか通らないこの道で、そこだけ扉が開いていたから自然と目についた。

人がいないのなら閉めようかと近づいた俺は、その場で硬直した。

白いベッドの上に横たわる人影。腕は点滴の痕だらけで、体に沢山のチューブを付けた患者が、目を閉じて静かに眠っていた。眠っているように見えた。
電子音が規則正しい音を立てて鳴っていて、それとは反対に速くなる俺の鼓動。頭がガンガン悲鳴を挙げる。


彼女だった。


穏やかともなんとも言えない表情で、ぴくりともしない。笑っていた彼女の面影なんて殆どない程痩せていて、俺は我が目を疑った。
ここで彼女のご両親が現れて、俺に病状を教えてくれる…なんてドラマみたいな事は起こらなくて。どの位その場に突っ立っていたんだろうか。覚えていない。目線を動かすと、名札が見えた。


「名前」


初めて呼んだ名前は、きっと彼女に聞こえていない。そう思うと視界が滲んだ。いつから?どうして?色々な疑問が浮かんでは消えて、俺はその場に崩れ落ちるように膝をついた。


綺麗な名前だね。


ああ、そうか。
俺は彼女の事が好きだったんだ。




もう中庭から花を持って来れる季節じゃないけど、雪が降っているよ。積もらないと思うから、今見ておかないと後悔するんじゃないかな。

雪雲で薄暗くなった病室は、悲しい電子音と俺の悲痛な思いで溢れていた。





END.

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初★幸村夢。ぎゃふん。
続くかは考え中です。




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