夢の中で、突如現れた髭面のオッチャンに「昨日さやかちゃんにフられてムカついたから、君と君の友達の魂を入れ換えておいたよ」と訳の分からへん事を言われた。

そこで目が覚めて、んなアホなと思って起き上がったら着ているモンがごっつ花柄やった。
部屋を見回すと明らかに俺の部屋と違う女の子の部屋で、開いた口が塞がらない。
慌てて二階から降りるとオカンらしき人が「今日は早いのね」と声をかけてきた。それに「ヒィ!」と全力でビビって行き着いた洗面台の鏡には…


「…名前やんか」


隣のクラスの名前がこの世の終わりみたいな顔して写っとった。






















「謙也?おらへんよ」
「え、また?」
「白石にトイレ行こー言うてたの聞こえたけど…」


1限目、2限目の終わりにも自分の教室を訪れたにも関わらず、自分の姿はなかった。…なんや変な言い回しやな。引き留めたクラスメイトにお礼を言って、教室の扉に寄りかかった。

俺が名前の中にいるっちゅー事は、今頃名前は俺の中にいるにのはまず間違いないハズ。せやのに俺in名前が一向に姿を見せないので、相談もなんもでけへん。アイツこんな緊急事態にお気楽やな。思わず盛大に溜め息をつく。

…そもそも、何で名前なんやろ。休みの日に街でたまたま会えば「おお」くらいに挨拶を交わす程度の仲なのに、ホンマあの髭面腹立つわ…なんで俺がこんな事…


「すまんなあ、ちょお避けてくれへん?」
「あ、すいませ…あ!」


後方から聞こえた聞き慣れた声。顔を上げると、ご存知絶頂部長の白石が不思議そうに俺を見下ろしていた。白石がおるっちゅー事は、と白石を廊下へ押し戻した俺が見たものは、女の子走りをしながら廊下を全力で駆ける自分の後ろ姿やった。


「ちょ、おま…待てや名前!やなくて俺!」


俺も急いでその後を追う、が…何やこの体!脚めっちゃ遅ッ!
いつもなら有り余る脚力も、風を掠める音も何もせえへん。おまけにもう疲れてきた。早!どんだけ燃費悪いねんコイツ!!


「うっわぁぁ何この身体!超速いんだけど!!」
「お前、聞こえてんなら止まれ!」
「嫌だ!私まだこの姿で白石くんとお話したい!トイレ覗き足りない!
「声デカいねんアホォォォ!!!あとその女の子走り止めや!!ギャラリーからの視線痛いわ!!」
「ややっ、もう疲れているのかい!ププーご老体だね!」
「いやこれお前の体やけどな」
「私の豊満なおっぱいが重たくて走行の妨げになっているんだね!あっはっはごっめーん!」
「いやもう重量的には快適走行やで」
「お前覚えてろよ、パンツ一丁でグラウンド走り回ってやるからな」

その後も涙目になって追い掛け回たが、名前は全く捕まらんかった。流石浪速のスピードスターの体やで。あんな走り方しても速い…って自画自賛しとる場合やない。確保せんと、俺と白石のアハンウフンな噂が立ち兼ねへん。考えただけで登校拒否になるわ。

せやけど今はもうアカン。真っ向勝負では誰にも捕まらへん自信があるのは自分が一番よう知っとった(これも変な言い回しやけど)。…こうなったら、部活の時間に待ち伏せて確保する他ないわ。

それまでアイツがパンツ一丁でグラウンドを走り回らないように祈りつつ、お返しに教科書の挿絵に落書きをしてやった。英語の教科書には、カナダからやってきた留学生のトムがユミに殴られて宇宙に投げ出されるパラパラマンガも描いてやった。





 


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