Bitter...?続編。




 
母がトントンと扉をノックする音が聞こえる。それに少し目を開けると、手に携帯を握りしめていた。ああ…また無意識にアラーム切っちゃったみたい。

 
「名前、起きなさいよ」
「んー…あと5分…」
「先程もそう言っていましたが」
「煩いな、お母さ…」


寝ぼけた頭をフル起動させた。
……違う。うちの母はこんな重低音の声で話さないし、何より
私のベッドに潜り込んで来たりしない。


「名前の温もりが心地好いですね」
「う、うわぁぁ…!!うわぁぁぁぁぁあ!!!!」
「寝具についた名前の匂いも興奮します」
「お、おか、おか…お母さぁぁぁぁん!!!!」









使











階段を下りきる前に転んで痛めた膝を撫でながら、リビングで優雅にコーヒーを飲むお母さんに詰め寄る。


「な、何で木手くんが家に居るの!!」
「なぁに騒々しい子ねぇ」
「ちょ…!落ち着き過ぎだって!まず質問に答えてよ!!」
「今日は日曜でしょう」


駄目だ話が噛み合わない。私が混乱し過ぎているせいかと思い、深呼吸をして階段を振り返る。しかし木手くんの姿は見えない。…え、今見た木手くんは幻?嘘だろ?


「今日は俺とデートでしょう。お母様に無理を言って上がらせて頂いたんですよ。」
「へぇぇぇい!!!!」


ままままま幻じゃなかった…!!いつの間にやら背後に立っていただけじゃなく、耳元で囁きやがったよ!!!!うわ鳥肌立ちまくってる…やっぱり怖いよ木手くん。


「アンタにこんなにかっこいい彼氏がいるなんて、お母さん驚いちゃった」


違うよお母さん誤解だよ。この人は同じ学年だけどクラスも部活も委員会も違うし、接点なんか一個もないのに何故か私を一方的に気に入っているだけの怖い人だよ。

でも私はそれを口に出せない臆病者。


「さあ名前、早く着替えて」


っていうか遂に家まで知られてしまった。…まずデートの約束なんてしてないのにな。
とぼとぼ階段を上がって部屋のクローゼットを開ける。殺し屋の木手くんに殺されたくないので、大人しく言う事を聞いて早く帰って来よう。


「名前は几帳面ですね。きちんとクローゼットの中も整頓されている」


気配を消して背後に立つのは止めて欲しい。心臓がドクンってなる。
(トキメキじゃなくて恐怖のほうで)


「俺はこの下着が可愛らしいと思います」


そう言った彼の手には私のうさぎ柄パンツが握られていた。
見えなかった。いつ盗ったんだ。木手くんが本気を出したら万引きGメンの目を欺くなんて簡単だろうな…なんて自分のパンツがたなびく様を見上げていた。もう朝からビックリ続きで私の脳は物事を深く考える事を止めたみたい。


「前にもうさぎのヘアピンをしていらっしゃいましたし、名前はうさぎがお好きなんですね」
「う、うん」


数日前に無くしてしまったうさちゃんのヘアピン。大好きでずっと前髪のところに付けてたんだけど…そんな事を言う前に私のパンツ返してくれないかな。私も何「うん」とか言ってんの。馬鹿じゃないの私。


本当に小さい声で「じゃあ…着替えるから…」と言うと、彼はあっさりと廊下に出てくれた。扉に寄りかかるような小さな音が聞こえて、私はゆっくりとパジャマを脱ぐ。


「そういえば」
「え?」
「最近、学校で噂になっています」
「な、何が…?」
「木手永四郎を従える猛獣使いがいる、と」
「…それって…」
「貴女の事でしょうね」


止めて欲しい。
噂を流した人達に土下座すれば止めてくれないかな。私は木手くんを従えているつもりなんて無いし、平和な学校生活を送りたいだけの一般人なのに。

私をゲームで例えるなら村人Aとかでいい。勇者達に一生「買った装備はセレクトボタンで装備しないと意味が無いよ!」って言っていたい。


「まぁ、貴女になら喜んで従いますけどね、俺は」


きっと今木手くんは笑っている。彼はラスボスだ。
ラスボスが村人Aを気に入るなんて可笑しいよ。


「ねえ、いい加減」
「え」
「俺の気持ちに気付いてくれても良いんじゃないですか」


扉越しの声。
小さくて、でもしっかりした木手くんの声に、私は固まった。
だって私はただの村人Aで…ラスボスと一緒にいる事自体が変だ。…いや、地位も学力も人気もある木手くんに、私は釣り合わない。周りに笑われるのがオチ。そんな考えがぐるぐる頭を巡る。今の彼と私を隔てるこの扉のように、きっと見えない壁が私達の間にあるんだ。


「…だんまりですか。これからに期待、という事にしておきましょう」


怖い筈の木手くんの存在が、私の中で何か別のものに変わったら…木手くんへの答えは出るのかもしれない。私は「うん」と空返事をして、扉をそっと開ける。


「俺は待っていますよ」


私を見てフッと優しく笑う木手くんの上着の胸ポケットには、
私のうさちゃんパンツがねじ込まれていた。




「木手くん、台無しだよ」
「何がでしょう」





END.

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